ロマンスに心酔



「⋯⋯これ、出してほしくないですか?」


せんぱいが録音機を掲げる。


「ああ、そりゃあ、もちろん⋯⋯」


「では、ひとつ約束。青葉にはもう付きまとわないでください」


「⋯⋯いや、だから、あれは⋯⋯」


「一度でも約束を破ったら、すぐにこれを上に出します」


「⋯⋯」


「⋯⋯いいですか?」


「わ、わかったよ⋯⋯」


「では、いったんは保管しておきます。ちなみに今の会話も録音されているので」


「⋯⋯」


ぬかりない。

これでようやく、ストーカー撃退に成功したようだ。


「では、そろそろ私たちの会議が始まるので」


「あ、ああ、じゃあ私はこれで失礼するよ、青葉さんも、すまなかった」


「いえ⋯⋯」


田中さんが慌てて会議室を出ていく。

その間もせんぱいは、田中さんをずっと睨みつけていた。

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