ロマンスに心酔



「あの、ありがとうございました⋯⋯」


「危なっかしいよなあ、ほんと」


「すみません⋯⋯」


そりゃあそうだ。

ストーカー疑いのあるひとを信頼し、簡単に密室でふたりきりになるのだから。


「本当に、せんぱいのおかげです、ありがとうございます⋯⋯」


「やっと任務完了だな。怖かったろ、大丈夫?」


「だい、じょうぶ、です⋯⋯あれ⋯⋯」


安心したのか、へにゃへにゃとその場にしゃがみこんでしまう。

音もなく目から涙が零れた。


「怖かったな。もう大丈夫だよ」


頭を撫でられ、さらに涙が溢れる。

そんなわたしを見てせんぱいもしゃがみこみ、包み込むようにぎゅっと抱きしめられた。

そのあたたかい体温とやさしい匂いに、心がほろほろと解れていく感覚がする。


───と、


「あ、か、会議⋯⋯!」


「ああ、大丈夫、半から」


勢いよくせんぱいを引き剥がしそう叫んだが、せんぱいはしれっと嘘をついていたみたい。

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