ロマンスに心酔



「特に何も無さそうだな。田中さんもいないし」


「はい、足音も聞こえないです。本当にありがとうございました」


「うん、もう何回も聞いた」


「何回も言わないと気が済まないです!」


本当に、それくらい感謝の気持ちでいっぱいだ。

無事何事もなくわたしの家に到着し、平穏が戻ったことを実感する。

そしてそれがせんぱいのおかげだということに、感謝が止まらないのは当然だ。


「じゃ、またあした」


「はい、おやすみなさい」


「おやすみ」


いつものようにアパートの前でお別れする。

階段を上がりながら、ふと、せんぱいのお家に泊まった日のことを思い出した。


「(ご飯、おいしかったなあ⋯⋯)」


あの日から、真似をして少し早起きをし、しっかり朝ごはんを食べるようにしている。

おかげで、心なしか体調もよくなっている気がする。


叶うのならば、せんぱいがつくったご飯を、もう一度食べたい。

そんなこと、願うだけ無駄だ。

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