ロマンスに心酔
大学時代は、せんぱいに彼女がいても何も思わなかった。むしろそれが当然だった。
だけど今は、彼女ができたとか、実は彼女がいたとか、そういったことを告げられると、確実に落ち込むだろう。
後輩としか見られていないとわかっているから、心に何度もブレーキをかけている。
「(⋯⋯かけなかったら⋯⋯?)」
そのまま底なしの沼に落ちていくのだろう。
そもそも、ブレーキをかけている時点でもう手遅れだ。
恋愛経験の乏しいわたしにとって、せんぱいのやさしさは毒だ。
あっという間に侵されて、解毒剤もない。
「(ちょろいなあ、わたし⋯⋯)」
もっと経験があれば毒に侵されずに済んだかもしれない。
せんぱいのやさしさを、純粋に受け取れたかもしれない。
不毛な恋だ。
ロマンスなんて素敵なものにはなり得ない。
それならいっそ、いつか自然に解毒するまで、楽しんでやろうじゃないか。
この頼りない縁が切れたら、いつか、沼から出られると信じて。