ロマンスに心酔
「きょうはありがとうございました」
「ん、こちらこそ」
「きょうだけじゃなくって、貧血のときからずっと、ありがとうございました」
「なにそんな、一生の別れみたいな」
だってもう、こんな気軽には会えなくなるじゃないか。
「仕事の依頼も変わらずメールするし、社内でも会えるだろうし、ごはんもよければまた行こうよ」
思わずじーんと来てしまう。
入社してから、部署もちがうし、深く関わるきっかけもなかった。
大学時代もただの先輩後輩で、気にかけてもらってはいたけれど、ここまでたくさんお話はできなかった。
ひとつのきっかけで、ずっと遠くの世界にいたひとと、こんなに近づけるなんて。
そして、これまで知ることもできなかった部分まで知れて、まんまと憧れがすきに変わって。
「⋯⋯いいんですか?ぜひ、おねがいします」
声が少し震えてしまう。
こんなの、ストーカーに感謝してもいいくらいだ。
「ん、じゃあ、また来週」
「はい、気をつけて帰ってください」
せんぱいがその場に留まって手を振ってくれるので、軽く振り返してから、アパートのオートロックを解除した。