ロマンスに心酔
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「(なんだあれ、かわいすぎるだろ⋯⋯)」
駅に向かいながら、たまらず髪を掻きむしる。
もともとあまり酔っていないし、夜風とパピコのおかげで醒めているはずなのに、青葉の真っ赤な顔が脳裏をよぎるたびに身体が熱をもつ。
大学時代から、純粋にかわいい子だとは思っていた。
貧血に遭遇したときは、当たり前のように庇護欲を掻き立てられた。
でも、それだけだ。
彼女がいたこともあったし、あの子だけが特別だという感情はなかったと言い切れる。
そのまま卒業して就職し、恋人という存在に失望していた頃。
新入社員に見覚えのある顔を見つけた。
総務部に配属されたことを知って、同期に様子を伺っていたのも、あくまで身体が弱いあの子を心配していただけだ。
たまに業務を依頼すると、すごく丁寧な資料が作成されていて、勝手に誇らしくなったりもした。
そうやって、特別な関わりもなく過ごしていたが、たまたま河野に用があって総務部に向かっていたところで、また彼女の貧血に立ち会った。
ストーカーのことを聞いて、心配になった。
どうにかしてあげたいと思った。
小さい身体で毎日頑張っている彼女を、労わってやりたいと思った。
何より、おれがつくったごはんを本当においしそうに食べる姿が、愛おしかった。
アンノンのライブに行きたいのは本当だけれど、青葉とのつながりを保っていたいことの方が大きい。
“気にかけていた後輩のひとり”だったあの子が、いつからか、おれの“特別”になった。
青葉は、おれの中身までをきちんと見てくれている。
青葉となら、失望せずに、恋愛ができるかもしれない。
まんまと絆されている。
それでも、もう一度、信じてみようと思えた。
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