ロマンスに心酔



■+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+■



「(なんだあれ、かわいすぎるだろ⋯⋯)」


駅に向かいながら、たまらず髪を掻きむしる。

もともとあまり酔っていないし、夜風とパピコのおかげで醒めているはずなのに、青葉の真っ赤な顔が脳裏をよぎるたびに身体が熱をもつ。


大学時代から、純粋にかわいい子だとは思っていた。

貧血に遭遇したときは、当たり前のように庇護欲を掻き立てられた。

でも、それだけだ。

彼女がいたこともあったし、あの子だけが特別だという感情はなかったと言い切れる。


そのまま卒業して就職し、恋人という存在に失望していた頃。

新入社員に見覚えのある顔を見つけた。

総務部に配属されたことを知って、同期に様子を伺っていたのも、あくまで身体が弱いあの子を心配していただけだ。

たまに業務を依頼すると、すごく丁寧な資料が作成されていて、勝手に誇らしくなったりもした。


そうやって、特別な関わりもなく過ごしていたが、たまたま河野に用があって総務部に向かっていたところで、また彼女の貧血に立ち会った。

ストーカーのことを聞いて、心配になった。

どうにかしてあげたいと思った。

小さい身体で毎日頑張っている彼女を、労わってやりたいと思った。

何より、おれがつくったごはんを本当においしそうに食べる姿が、愛おしかった。


アンノンのライブに行きたいのは本当だけれど、青葉とのつながりを保っていたいことの方が大きい。


“気にかけていた後輩のひとり”だったあの子が、いつからか、おれの“特別”になった。

青葉は、おれの中身までをきちんと見てくれている。

青葉となら、失望せずに、恋愛ができるかもしれない。


まんまと絆されている。

それでも、もう一度、信じてみようと思えた。



■+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+■

< 80 / 80 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop