妹の彼が好きな人はおデブのお姉さんだった ~本当の事を伝えたくて~

 そして1週間が過ぎて愛良は無事に退院した。

 背中の打撲もすっかり治って跡も残っていない。痛みも完全に引いて楽になった。

「あ~あ。退院したらもう愛良ちゃんに会えなくなるのが寂しいわ」
 麗華が言った。
「でも、退院しても会い行っちゃうわ。ここで再会したのも、偶然じゃないと思うし」
 
 麗華はとても愛良を気に入っているようだ。
 愛良も悪い気はしていない。
 だが麗華は幸太の姉だから深入りはできないと思っている。



 退院には優斗が付き添ってくれた。
 退院をきっかけに愛良には優斗の家に来てほしいと願っているが、まだ急にはいけないと言われて少しずつ荷物を運ぶことにした。
 
 それほど沢山の荷物があるわけではなく大きな引っ越しは必要ないと愛良は言った。家具などはそのまま置いてゆき次の入居人に使ってもらってもいいと。

 着替え類や寝具その他諸々の運び出せる荷物を運んでもらい、いつでも引っ越せるようにかたずけた愛良。

 服を選んでいると来ていた服がサイズがゆるくなっていた。
 怪我をして入院していたから、あまり食欲もなくいつもより食べていない事から自然と体重が減ったようだ。

 また普通の生活に戻れば体重は戻るだろうと思った愛良。

 ピピッ。
 スマホが鳴って愛良は電話に出た。
「はい…」
(…末森さん? )
 いやらしい声…この声は…。
(私、美和。幸太さんの婚約者よ。覚えているでしょう? )
「はぁ…何か御用でしょうか? 」
(あなたに忠告しておこうと思って。今後は一切、幸太さんに近づかないで頂戴ね。もし近づいたら、次はあなたを殺すわ)
「脅迫ですか? ご自分が指名手配されている事を、承知で言っているのですか? 」
(指名手配? そんなの怖くないわ。誰も私を摑まえる事なんかできないもの。美和は…この世にもういないしね)
「どうゆう事でしょうか? 」
(あなたは詳しく知らなくていいわ。これからは、私と幸太さんの結婚生活が始まるのだから邪魔しないでね。いい? )
「…そうですか。…」
(あなた。末森愛香の姉でしょう? 似てないけど同じ苗字だからすぐわかったわ)
「愛香をご存知なのですか? 」
(ええ、よーく知っているわ。愛香は幸太さんのストーカーだったもの。嫌がる幸太さんに無理やり着きまとっていたから、私が始末したのよ)
「始末した? どうゆう事ですか? 」
(決まっているじゃない。殺したって事よ。愛する殺人でね)

 愛する殺人と聞いて愛良はぞっとなった。

(いい? 邪魔しなければ、生かしておいてあげる。でも、邪魔するならあなたにも死んでもらうから。そのつもりでいて頂戴ね)

 それだけ言うと電話は一方的に切れた。

 自ら愛香を殺害したと自供した美和。愛する殺人でと…。
 人を殺すことを当然だと思っている。そして美和は殺人を愛している…。すでに世界感が異常を越えているのだろう。

 普通の思考では美和には通じない…。
 ただ分かった事は、幸太の傍にいてはいけない事だけだった。

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