妹の彼が好きな人はおデブのお姉さんだった ~本当の事を伝えたくて~
その頃の愛良はスラっとしていて女子の中でも背が高く6年生だが165cmあった。
子役に抜擢されそうなくらい可愛くて、長い髪を頭のてっぺんでみつあみにして結っていた。服装はいつも半ズボンにトレーナー姿。弱い者いじめが嫌いで、イジメている奴らを退治していた。
学年ではヒロインと言われていて人気者だった。
そんな愛良はずっと気になる男の子がいた。
同じ町内で花村というお金持ちの家に住んでいる4つ下の小学二年生男の子だった。
まだ幼いのにどこか冷静でシレっとしていた男の子。でも、なんだか寂しそうな目をしていた。
時々家から出てくるところを目撃して目と目が合うか合わない程度で、遠くから見ていた愛良。
そんな男の子が転校すると聞いて、愛良は急に寂しさが強くなり一度だけでもいいから男の子と話がしたくて家に行ってみた。
だが家に着くと男の子は初老の男性と車に乗ってどこかへ行ってしまう所だった。
もう二度と会えなくなる…そう思うと愛良は
「行かないで! 」
と、叫んでいた。
しかしその声は空しくも届かず車はどんどん遠くへ行ってしまった。
もう会えない…お金持ちの家の子だから私とは縁がない子なのだ…そう自分に言い聞かせた愛良。
それからだった。
愛良は妹の愛香の残したご飯も食べるようになり、中学に入る頃には60㎏を超えるくらい太ったのだ。
背は伸び続けたが太った愛良を馬鹿にして「デブス」と周りが避難していたが、愛良は生活スタイルを変えようとはしなかった。
そのままデブのまま大人になった愛良。
行かないで…そう言った自分と今の幸太が重なって見えるのは何故?
愛良は茫然となっていた。
「ちゃんと聞こえていました、あの時の声」
幸太は愛良に歩み寄るととても愛しい目をして見つめてきた。
「…言わないと伝わらない事ばかりですね。…でも、言えなくて…こんな弱い俺が、言ってもいいものかどうかとずっと迷っていました。…視力を取り戻して、俺が一人前の男になったら。あなたのことを探そうと決めていたのです」
「どうゆう事ですか? 」
「16年。ずっと、俺が好きな人は…あなたです…」
「え? 」
驚いてポカンとなってしまった愛良。
愛香と付き合っていた…愛香とずっと一緒にいたのに…私の事を好きってどうゆう事?
驚いている愛良を暖かいぬくもりが包み込んできた。力強くて優しくて…そのぬくもりの中から伝わってくる、規則正しい鼓動が愛良の体の中まで伝わって来た。
ギュッと愛良を抱きしめた幸太。
「…愛しています。…どんなあなたでも、俺は…宇宙で一番、あなたを愛しています…」
そう伝えた幸太の声が上ずっていた。
どうして今言うの?
愛良は自分の気持ちが揺れ動くことが怖かった。幸太の傍にいてはいけないから、去って行こうと決めているのに…。
「あなたに嫌われている事は承知しています。でも、この気持ちはかわりません。16年、一度も揺らいだことがありませんから」
「…私…嫌いだなんて、一度も言った事ありません…」
「え? 」
「確かに、あなたの事が憎いと思っていたのは事実です。でもそれは、私の勝手な思い込みです」
幸太はそっと体を離して愛良を見つめた…。
愛良も恥ずかしさもあったが幸太をまっすぐに見つめた。
「教えて下さい…。あなたは、あの花村家の男の子ですか? 」
そう尋ねた愛良に満面の笑みを浮かべて強く頷いた幸太。
「はい。…俺、花村幸太です。…今は、祖父の家に養子に来て樫木幸太になりました…」
「あの時の…」
言われてみると確かにあの時の男の子だ。
目の前で笑っている笑顔は、幼い日のまま…この笑顔を見たくて、私は彼をずっと見ていた…。こんなに素直に笑う男の子をずっと見ていられれば幸せだと思っていたから…。
スッと…愛良の頬に涙が伝った。
その涙は愛良の中にずっと閉まっていた重たい壁を溶かしてゆくようで…幸太を見ていると、心が軽くなってゆくのを感じた。