妹の彼が好きな人はおデブのお姉さんだった ~本当の事を伝えたくて~

「所長、お疲れ様です」
 
廊下ですれ違ったのは、パラリンピックで働く日下部恵三だった。渋い顔立ちのハンサムで、がっしりとした長身の彼は女子に人気がある。しかし、彼は現在勉強に専念したいと交際を控えており、次の司法試験に合格しなければ諦めると言っている。

「日下部さんお疲れ様です。こちら、今日から派遣社員として来てくれている末森愛良さん。所長秘書をお願いしているよ」
「末森さん。日下部です、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 恵三は愛良をじっと見つめてきた。
 
 何故見つめられるのか分からず、愛良はそっと視線を反らした。

「それじゃあ」

 幸太と愛良が去ってゆく姿を恵三はじっと見ていた。

「末森…愛良かぁ…」 
 名前を呟きながらじっと見つめている恵三は、なんだか愛良に吸い込まれそうな目をしてた。



「末森さん。女子が言う事は気になしなくていいですからね」
 所長室に戻って仕事をしていると幸太が言った。
「はい、特に気にしていませんので」
「末森さんって、結構モテていますか? 」
「いいえ、そんなことありません」
「そうですか? さっき、総務の男子達がずっと末森さんを見ていたので」
「そうですか。太っているからですよ、どこに行っても見られてしまいますから」

 シレっと答えた愛良。

 幸太はじっと愛良を見ていた。

 そうじゃないと思うんだ。男子たちはきっと気づいている。彼女の真の魅力にね。あの日、下部さんでさえ釘付けになっていたよ。
 愛良を見ながらそう思った幸太だが言葉には出さなかった。

(姉はいつも私のせいで太ってしまう…。私が小さい頃から病気がちで、あまりご飯を食べられないから。母が作ったご飯を残すわけにはいかないと、姉がそれを食べてくれる。だから姉は太ってしまうの。)
 
 幸太はふと、昔聞いた言葉を思い出した。

 それはまだ幸太社会人になりたての頃。
 大学生の時から交際していた愛香という女性から聞かされていた事だった。 

 愛香は姉思いの優しい女性でほっそりとしていていつも青白い顔をしていた。綺麗なブラウンの髪が肩まで長くてまるで女優さんのような顔立ちをしていた。だが交際を申し込んだんだのは幸太からではなく愛香のほうからだった。幸太も言い寄ってくる女性がいないわけではなかったが何故か愛香に惹かれてしまった。
 
 ずっと一緒いる幸太と愛香は将来は結婚するだろうと周りからは言われていた。
 しかし…
 5年前愛香は歩道橋から転落して死亡した。
 
 死亡した愛香から幸太は大切な伝言を預かっている。
 それを伝えたいと思っているが…。

 


 昼休みのチャイムが鳴りお昼休憩に入った。

 愛良はお弁当を持ってきていて屋上で食べる事にした。
 このビルの屋上は囲いがあるため、雨の日でもゆっくりと過ごせる。あまり屋上で過ごす人はいないようで、愛良が来るとガランとしていた。

 屋上には休憩用に椅子とテーブルが複数用意してある。
 愛良はテーブルのお弁当を広げた。

 お弁当は…何故か二人分ある。

「頂きます」
 手を合わせて食べ始める愛良。
 同じ大きさのお弁当箱が二つあるのは何故だろうか?
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