妹の彼が好きな人はおデブのお姉さんだった ~本当の事を伝えたくて~

 愛良がお弁当を一人で食べているとガチャっとドアの開く音が聞こえた。

「あれ? 末森さんここでお昼食べているのですか? 」
 やって来たのは幸太。

「わぁ…美味しそうなお弁当だ」
 愛良のお弁当を覗き込んできた幸太。
「あれ? 二つあるのですか? 」
 幸太はもう一つのお弁当箱を手に取った。
「もしかして、こっちにもなにか入っているのですか? 」
 
 幸太は返事を待たずにお弁当箱を開けた。

「わあ、すごい…」
 お弁当箱には色鮮やかなおかずが並び、小さなおにぎりが三つ入っていた。
「これは美味しそうなお弁当ですね。誰が食べるのですか? 」
「私です」
「え? そのお弁当、食べているのにですか?」
「はい、いつも二人前を食べるんです」

 幸太は驚いた表情で眉を上げた。

「このお弁当、僕がもらってもいいですか?」

 愛良は食べる手を止めて幸太を見た。
「僕、お昼を忘れちゃって。今から買いに行くのも面倒だし、ちょうどいいからもら、頂きますね」
「いえ、それは…。他の人には食べてもらうようなお弁当じゃないですから」
「いいじゃないですか。どうせ食べてるんだし。足りなかったら、後で美味しいスイーツをおごりますから」
「そんな…」
「こんな美味しそうなお弁当を一人で食べるなんて。最近はコンビニのお弁当ばかりで、こんな手作りのお弁当は本当にありがたいのです」

 そう言いながら、幸太は座ってスーツのポケットから割り箸を取り出し食べ始めた。。

 愛良は驚くばかりでなんだか幸太のペースに巻き込まれたような気がした。
 

 しかたなくお弁当を幸太にゆずった愛良。
 だが、幸太は本当に美味しそうにお弁当を食べている。一品・一品を味わうようにゆっくり食べて「美味い」と食べるたびに笑っている。

 そんな姿を見ていると悪口を言われた事なんてどうでもいいと愛良は思えてきた。

 愛香…あなたもこんな気持ちだったんだね…。

 そう思いながら愛良は持っていたペットボトルのお茶を幸太に渡した。
「どうぞ」
「お、サンキュー! お茶どうしようかって思って…」
 新しいペットボトルのお茶を受け取り幸太は飲み始めた。
「このお茶も美味いですね」
 そう言って笑いかけて来た幸太。
「…別に…どこにでもあるペットボトルのお茶です…」
 愛良はシレっと答えた。
 そんな愛良を幸太はじっと見ていた。


 愛良はお弁当を二つ食べている。それには理由があった。そしてその理由の中に愛良が太っている原因も隠されている。
 

「あの…」
 お弁当を食べ終わった幸太がじっと愛良を見てきた。
「お弁当。二人分食べるって言ってましたが。これからも、そうするのですか? 」
「ええ、それが私には普通の事ですから」
「そうですか。じゃあ…今はまだお腹空いているのですか? 」

 そう聞かれると愛良は空腹感が消えている事に気づいた。
 突然現れて幸太にお弁当を奪われた事で空腹感から気がそれていたのだ。

 そう言えば、お腹がいっぱいだ…どうしてだろう?
 愛良は少し驚いていた。

「もし今、空腹感が満たされているのなら、二人分食べる必要はないということですよ」
「今日は偶然ですよ」
「それでも、今の状況が真実だと俺は思います」
「えっ?」

 幸太はふいに目をそらした。

「本当は二人分なんて食べたくないのでは?」
 
 目をそらしたまま、ゆっくりと愛良に視線を戻す幸太。
 その目は少し厳しく見えたが、優しさが感じられて、愛良は心臓が跳ねた。

「急にすみません。お弁当箱、洗って返します」
「いいえ、結構です。そのまま返して下さい」
「そっか…」

 言われた通り幸太はお弁当箱をそのまま愛良に返した。

「ご馳走様。本当に美味しかったです。…こんなお弁当、毎日食べる事が出来たら…幸せだろうなぁ…」
 幸せだろうなぁ…と言う部分はちょっと消え入りそうな声で愛良には聞こえなかったようだ。

 愛良は複雑な気持ちだった。
 誰にも関わりたくなくて一人で屋上へ来たのに、どうして幸太が来るのだろうか? いつも食べているお弁当まで食べられてしまうとは…。
 
 だがこのきっかけが愛良を劇的な世界へ変えてしまうとは、この時の愛良は予想もしていなかった。

 
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