妹の彼が好きな人はおデブのお姉さんだった ~本当の事を伝えたくて~
「もうやめなさい…。本当に殺したいのは、自分の事でしょう? 」
「はぁ? 」
「あなたは自分が一番憎いの。どうして私だけが…なんで私だけ酷い目に合うの? 誰も見てくれない…。そう思っているでしょう? 」
「当然じゃない。母親だって私の事を見てくれなかったのよ。美和ばかり見てて、同じ日の生まれた私の事なんてちっとも見ていない。…挙句には生贄にして…」
「そう。あなたはそうやってすべてを憎んできた。憎み続ける事でその怒りを殺意に変えた。そしてその殺意を愛していると思い込んでいる」
ナイフを構えている美和の手が震えだした。
きっと図星を指されているからだろう…。
「本当はそうじゃないでしょう? 」
「はぁ? 何言ってんの? 」
「本当は…愛してほしいのでしょう? 」
「愛して…ほしい? 」
「そう。あなたはずっと愛してほしかった…お母さんに…」
ギロっと恐ろしい目をしていた美和の目が怯んだ。
「同じ日に生まれたのに。私だけ見てくれない…私はここにいるのに。…そう言いたかった、お母さんにね…」
「…お母さん…」
お母さんと言われると美和の頭に強い痛みがはしった。
(美和、すごいわね。今日も万点、さすが私の子供よ)
母はテストで満点を取った美和をギュッと抱きしめて誉めている。
その後ろで満点の答案用紙を持っている美紀がいる。
(お母さん、私も100点とったの)
そう呼びかける美紀だが母にはまったく届かない。
何度か呼びかける美紀の声に気づかないまま、母は美和を誉めてばかりで美和だけにご褒美を与えていた。
夕食を美和の大好きな物ばかり作り、美和が習いたいと言うとバレエ教室へ通わせてピアノも習わせてスイミングにも通わせて。いつも美和が言うとおりにばかりしていた。
その後ろで美紀は小さな声で(私も習いたい)と言っていたが振り向いてもらえることはなかった。
代議士の愛人として母は思うのままお金をもらっていて、大きな屋敷の住まわせてもらいお手伝いさんがいて家事全般をやっていてくれた。
(美和コンクール優勝おめでとう)
バレエコンクールで優勝した美和に新しいシューズをプレゼントする母。
(美和の為に今夜はごちそうよ、沢山食べなさい)
美紀もいるのに母の視界には美和しか入っていない。
(どうして? 私もいるのに…なんで私を見てくれないの? )
同じ日に生まれた美和はとてもかわいがってもらい、いつも母に褒められて沢山の愛情をもらっているが。美紀は存在すら見てもらえていなかった。
美和にはマンツーマンで家庭教師がついているが美紀は自分で勉強して満点を取っているのに全く認めてもらえない…そんな環境で育った美紀は言葉には出さなくとも美和を憎むようになった。そして自分を見てくれない母にも強い憎しみを抱くようになっていた。
代議士の父が亡くなり手切れ金をもらって転落した母…それでもお金持ちであり続け若くいたいと思った母に生贄になってきた美和と美紀。
美和が死んでも死亡届を出さない母。
美和の代わりに犠牲になってきた美紀。
(みんな死ねばいい…)
いつしか美紀の怒りは殺意へと変わって行き、攻撃する者は全て殺せばいいと思うようになった。
(女はね25歳までに結婚して、子供を産んで幸せになるの。だからね美和、あなたも25歳までに結婚してね)
母がいつもそう言っていた。
その言葉だけは美紀もずっと想い続けていた。
(好きな人と結婚して幸せになるの)
そう思っていた美紀。
母親を殺して美和になり好きになった男性と幸せになろうと思っていた。
だが思うようにはならず、美紀が好きになった男性は他の女性を好きになる。いや、美紀が勝手に思い込んで好きになるだけで相手は他の女性が好きなだけ…それを逆恨みする美紀。
それは幼いころから自分を見てもらえなかったと言う被害者意識が強いから。
「お母さん…」
目の前の愛良を見て美和が呟いた。