妹の彼が好きな人はおデブのお姉さんだった ~本当の事を伝えたくて~


 その時…遠くからパトカーのサイレン音が聞こえてきた。
 騒動に気づき誰かが通報したようだ。

「…私は…美紀…」
「そうね、あなたは美紀。可愛い名前を付けてもらったじゃない。きっと、お母さんも貴女の事を可愛くと愛しいと思っていたに違いないわ。私もそうだったから。忙しくて全然見てくれないと思っていた父が、私に愛と良心を大切に育ってほしくて「愛良」と名付けてくれたと聞いたわ」
「そう…。お母さん、どんな思いで私の名前を付けくれたのか…聞きたかった…」

 
 パトカーのサイレンが近づいてきて路肩で止まった。
 
 パトカーから複数の警察官が降りてきて美和こと美紀を確保した。
 
 美紀は素直に警察官に従い手錠をかけられた。

「…有難う愛良さん…」
 そう言って愛良に笑いかけた美和はとても穏やかな顔をしていた。
「安心して。私は最後まであなたの味方でいるから」
「え? 」
「あなたの弁護は私が引くき受けるわ」
「あなた…弁護士なの? 」
「ええ、国際弁護士。でも日本では国選弁護しが専門なの。だから安心して」
 安堵の笑みを浮かべて美紀は警察官に連れ行かれた。

 ウェイディングドレスを身にまとったままパトカーに乗せられてゆく美紀は人々の注目を浴びていたが、なんだか次の世界へ行くための第一歩を踏み出しているようにも見える。
 恐ろしく嫉妬にまみれて思い込みだけで向かってきた美紀だったが、来た時とは違い穏やかな表情でパトカーに乗り込み、見ていた愛良にニコっと笑いかけた。

 走り出したパトカーを愛良は見えなくなるまで見ていた。


「愛良…」

 声をかけてきた幸太。
 目に一杯の涙をためて愛良を見るとギュッと抱きしめた。
「心臓止まるかと思った。…こんな危ない事、二度とやらないでくれ! 」
 抱きしめている幸太が泣いている…心配と安堵の気持ちが込みあがり涙として溢れてきたようだ。
「…もう。あなたって本当に泣き虫なんだから…大丈夫よ」

 幸太は涙がいっぱいの目で愛良を見てそっとお腹に手を当てた。
「これからはよく考えてくれ。愛良は一人の身体じゃないんだ、この子を守っている義務がある事を忘れないでくれ」
「はい、分かりました」
「大丈夫? どこも痛くないか? 」
「大丈夫ですよ」
 
 愛良は満面の笑みを浮かべた。
 母親になると決めた愛良は随分と芯の強さを得たようだ。もともと強かった愛良だが、母の愛はそれよりもはるかに上回る強さだ。
 あの狂った美紀を改心させ穏やかな顔に戻してしまうほどだから…。
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