妹の彼が好きな人はおデブのお姉さんだった ~本当の事を伝えたくて~
その後。
愛良と幸太も事情聴取された。
一方的に美紀が思い込み幸太に長い間つきまとっていた事は明白だ。そして、幸太が失明してしまったあの事故は、美紀は幸太にやっと会えた喜びで抱き着こうとしたが、勢いで突き飛ばされ道路に放り出された幸太が事故に遭ったようだ。美紀は殺意はなかったが、隣にいた愛香には殺意があった事を認めている。
愛良の存在は派遣として事務所に来た時に知って秘書をやめさせようと嫌がらせをした事を認めた。そしてなんとか愛良を排除しようとして闇サイトを利用して殺害依頼をしたことも認めた。
「…初めてだったの。あんなにギュッと抱きしめてくれた人。…私の事ちゃんと見てくれた人がいたの…。嬉しかった…」
逮捕された美紀は何度も愛良に抱きしめてもらった事が嬉しくて喜んでいた。
素直に全ての殺害を認めている美紀は子供の様な顔をしてニコニコして取り調べを受けているようだ。整形を繰り返しすぎて顔が崩れているが、そんな事は気にしていないようた。
2週間後。
あれから愛良は中絶手術は取り消し出産に切り替えた。
幸太が一緒に病院へ付き添い夫であると話をすると「素敵なご主人ですね」と医師から言われたそうだ。
もうすぐ34歳になる愛良はそろそろ高齢出産に入る年齢ゆえに決して無理をしないように言われた。
出産を決めた事で幸太は正式に婚約するために優斗に挨拶にやって来た。
いつもスーツ姿の幸太だが今日はいつも以上のかっちりと舌スーツ姿で緊張した面持ちだ。
客間に通され優斗を向かい合うと額に汗がにじんでいて、とても緊張している事が伝わってくる。
「あ…あの…。愛良さんとの結婚をお許し頂きたくて本日はご挨拶に来させて頂きました」
言い終えた幸太はハンカチで額の汗を拭いて一息ついた。
優斗は暫くじっと幸太を見つめたまま何も言わなかった。
だがその表情はちょっと意地悪をしているようにも見える。緊張している幸太の様子を見て楽しんでいるようにも見える。
黙ってみている優斗にドキドキとしながら答えを待っている幸太…。
「私が、反対すると思っているのかい? 幸太君」
「あ…い、いえ…その…」
「君は愛良をどのくらい想いつけているのだい? 」
「はい。16年です」
「16年。そんなに想い続けているなら、たとえ私が反対したとしても諦める事はないだろうね? 」
「もちろんです」
優斗は軽く笑った。
「大賛成だよ」
「ほ。本当ですか? 」
「ああ、愛良の事を守れるのは気味しかいないと思うから」
「あ…有難うございます! 必ず…宇宙一の幸せ者にしますから。約束します」
「宇宙一かぁ…頼もしいね…」
ホッとした幸太はもう一度額の汗を拭いて一息ついた。
そんな幸太をやれやれと優斗は見ていた。
愛良に末森財閥を任せたいと思っていた優斗だが、先の事はまたゆっくり考えようと思った。まだ現役で頑張れるうちは自然の流れに身を任せているのもいいだろうと思っている。
「せっかく我が家に来てくれたんだ、ゆっくりして行ってくれ」
「はい、有難うございます」