妹の彼が好きな人はおデブのお姉さんだった ~本当の事を伝えたくて~
幸太の婚約者?
春の日差しの中で心地よく、新緑が顔を出し始める今日この頃です。
上着は軽くなり、分厚いコートやダウンはもう必要なく、薄手のコートやカーディガンで過ごせる時期になりました。
服装も薄着になり、女性たちの間ではダイエットに関する話題がちらほら聞こえてきます。
派遣社員の末森愛良は樫木法律事務所に派遣され、不思議なことに所長の幸太から直々に所長秘書を任されました。
秘書経験のない愛良に対し、事務員と同じだと説明し、指導は自分が行うと言って丁寧に教える幸太に、愛良は距離の近さに戸惑いを感じていました。
そんな幸太は、愛良がいつも食べているお弁当をもらって食べました。
それがきっかけで、幸太は毎日のように愛良のお弁当を狙い、屋上に来るようになりました。
いつもお弁当を奪われてばかりでは悔しいと思った愛良は、幸太が二度と食べたくないような不味いお弁当を作ってみたこともあった。 納豆の天ぷらや、大豆で作ったハンバーグを入れてみたが、幸太はどれも美味しいと言ってペロリと食べてしまう。
懲りずに愛良のお弁当を奪いに来る幸太に呆れつつも、愛良は気づけば二人分のお弁当を作ることが楽しくなっていた。だがまだ、その本心は認められないようだ。
愛良が樫木法律事務所に派遣されて3週間の日々が流れた。
仕事にも慣れてきて女子社員がヒソヒソと悪口を言っていても気にすることなく、愛良は笑顔で仕事をしていた。
そんな時。
フロアを派手な柄模様のワンピースを着て、まるでキャバ嬢のようなメイクと盛っている髪型で歩いている年増の女性が現れた。
スカート丈は膝上で太ももを見せているばかりか、お尻のラインもくっきり見えて太目の足を恥じらう事もなく出していて赤いハイヒールを履いている姿はちょっと痛い。
「おはようございます」
気持ち悪い声色で総務に入って来た女性を事務員たちが一斉に見た。
「あら、所長はこちらにいらっしゃらないのね? 所長室かしら? 」
誰? あなた…と言う視線が向けられた。
「まぁ、あなた達。もう私に夢中なの? 私、今日からこの事務所の事務員として入社した金澤美和。よろしくお願いしますね」
ぶりっこな口調であるが声はオバサンでアンバランスな金澤美和。
この女性が現れてこの先大きな黒い風が吹いてくるとは、この時誰も思わなかった。
金澤美和は現在35歳の独身で自称パラリンを名乗る。
今まで別の法律事務所で勤務していたようだが、彼女の周りでは不自然な事件が発生して狙われた男性社員が行方不明になる事が多く発生して事務所側から解雇されている。惚れやすいのか純情なのか不明だが「運命の人」と言って、男に近よる癖があるようだ。
高校を卒業して大学へ進学しても中退していて、家庭環境がかなり悪かったのではないかと囁かれている。
総務で自己紹介をした美和はそのまま所長室へ向かった。
その姿を呆れた視線で見ていた社員達の視線には全く気付いていないようだ。
ツカツカと歩いてきた美和はそのまま所長室へやって来た。
「失礼しますぅ」
所長室へ入ってきた美和は色っぽく幸太を見つめて歩み寄って行った。
「幸太さん…」
ん? と幸太は美和を見た。
「美和。無事にこの事務所に雇ってもらえました」
え? と驚いた幸太。
この人は面接に来た時場違いな格好をしていて相応しくないから不採用にしたはずだけど…。
「幸太さん。美和の邪魔したあの女はね、急に病気になってしまったようなのです。それでもう病院から出てこれなくなったようで。美和が代わりに選ばれたのよ。やっぱり私達は運命で結ばれているのね」
幸太は特に何も言う事はなくそっと視線を反らしてパソコンへ目を移した。
今ここで何を言ってもこの女には通じなさそうだ。法律事務所に勤務すると言うのに、この格好はないだろう。それに何が運命の人なんだ? なにかの漫画でも読み過ぎているようだな。
そう思った幸太がだが口には出さなかった。
「さて、私の席はどこかしら? 」
見渡した美和は愛良に気づいて吹き出した。
「やだぁ。幸太さんの傍にどうしてこんなデブスがいるの? そこ、私の席じゃない? どきなさいよ」
愛良のデスクにバンと手を置いた美和。
愛良は微動出せずに仕事を続けている。