妹の彼が好きな人はおデブのお姉さんだった ~本当の事を伝えたくて~
小学校へ入ると、それは子供だけじゃなく保護者の間でも囁かれるようになった。
「幸太君のお母さん、足が不自由なの? 」
「気の毒ね」
「どうして足が不自由なの? 」
保護者の言葉は、子供の言葉よりエグイものの言い方で。
嫌味を言いながら情けをかけるような言葉で、それを聞くたびに幸太は怒りが湧いて悲しくなっていた。
「お母さん、もう学校に来ないで! 」
幸太がそう言った。
母はショックが大きかったが、こんな自分が学校へ行くことが嫌なのだと解釈して「分かったわ」と小さく答えると。
それ以来学校へは行くことなく、全て父が行っていた。
それから間もなくして、幸太は養子に行くことを決めた。
母の顔はまともに見る事がなく、養子に行っても一度も家には帰る事なく…16年の時が流れていたのだ。
(幸太。…あなたが、元気に生まれてきてくれて、すごく嬉しかった。お父さんなんか感動して号泣していたの。それにつられてお兄ちゃんもお姉ちゃんも泣いてて。みんなで嬉しくて一緒に泣いていた事を、今でも思い出すの。だからかな? 幸太が泣き虫になっちゃったのは)
「…俺は、泣き虫じゃない…」
やっとの声で言い返した幸太の声は、上ずっていた。
(…幸太…。お父さんとそっくりな声になったのね。…幸太はお父さんにそっくりで。人一倍優しくて物事を冷静に見ているから、私の負担を考えてお爺ちゃんの家に行くことを決めたってわかっていたのよ。でもね、もっと一緒にいたかった。学校の行事には来なくていいって言われていたけど。それでも、幸太が大人になるまでは一緒にいたかったの。…ごめんね、何もしてあげられなくて…)
「何を言っているの…俺の事、産んでくれたじゃないか。…」
やっとの声で幸太が答えると。
電話口の向こうで、母が鼻をすする音が聞こえた。
「…ちゃんと産んでくれた…それだけでも大変だから。…俺は、それ以上何も望んでいないよ…」
(幸太…生まれてきてくれて本当にありがとう。…私の事を、お母さんに選んでくれて…本当に有難う…)
電話の向こうで幸太の母が泣いているのが聞こえてくる。
幸太も声には出さないが泣いていた…。
「…泣き虫なのは母さんじゃん。…きっと…俺は母さんに似ているんだと思うよ…」
(私に? )
「ああ。…爺ちゃんが言ってる。…俺は母さんにそっくりだって。大人になる俺を見て、母さんの事を思い出していたって言っていたよ」
(…そう…)
「それより。急だけど、今度の休みの日は家にいるの? 」
(ええいるわよ。どうかしたの? 急に)
「紹介したい人がいるから、連れて行きたいのだけど」
(え? まさか、幸太結婚するの? )
「あ…うん…」
(そうなの? おめでとう。…もしかして、幸太が追いかけていたの女の子じゃないわよね? )
「そうだよ。俺がずっと好きなあの人だよ」
(本当に? そっか、楽しみにしているわ。お父さんにも言っておくから)
「ああ…」