あなたと共に見る夢は〜俺様トップモデルの甘くみだらな包囲網〜
恋人
「お疲れ様」

聞こえてきた声に、莉帆は笑顔で顔を上げる。

オフィスのドアを開け、スーツ姿の岡部 和也が爽やかな笑顔で入って来た。

「お疲れ様です」
「社長は?」
「お部屋にいらっしゃいます」
「分かった」

そう言うと、立ち上がって見送る莉帆の前を通り過ぎざま、和也は口元を緩めて莉帆を見つめた。

莉帆もうつむきながら小さく微笑む。

2人だけのいつもの合図。

つき合ってかれこれ1年になるだろうか。

この関係は誰にも知られていない。

日本の最大手と言われるモデルエージェンシーで、和也はマネージャー、莉帆は事務員として働いていた。

ここに所属しているモデルは赤ちゃんからシルバー世代まで幅広く、外国人やハーフモデルも多く在籍している。

ファッションショーに出演するショーモデルの他にも、雑誌や広告などに掲載されるスチールモデルや、読者モデルと呼ばれる雑誌専属モデル、インフルエンサーなどのWEBモデル、手や体の一部分だけで表現するパーツモデルなど、活躍の場も様々だ。

和也は、事務所の中でもダントツの売れっ子で海外の有名ファッションブランドからも声がかかるトップモデル、(ぜん)のマネージャーだった。

英語とフランス語が堪能な和也は、自身もモデルのような顔立ちと長身。

禅と一緒にショーに出ないか?と先方に提案されたこともあるらしい。

そんな和也につき合って欲しいと言われた時、莉帆は何かの冗談かと思った。

和也より5才年下で、周りが美男美女だらけのモデル事務所において、ごく普通の顔立ち。

しかも当時入社して間もない頃で、仕事ができるとも言えない新人の自分が、なぜ?と。

即座に断ったが和也は諦めず、それから何度も食事に誘われ、少しずつ時間を共にするうちに、莉帆は彼の言葉を信じて恋人になった。

初めてを捧げたのも和也だった。

いつも禅と一緒に現場に出ている和也とはオフィスで会うことはほとんどなかったが、時々こうして顔を合わせた時は特別な目配せをくれる。

その日の仕事終わりに「うちで待ってる」というメッセージを確認すると、莉帆はいつものように彼のマンションへ向かった。
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