あなたと共に見る夢は〜俺様トップモデルの甘くみだらな包囲網〜
「ふう、眠れない」

ベッドの中で莉帆は何度も寝返りを打つ。

使わせてもらっている部屋はホテルのように綺麗で、バスルームでゆっくりお風呂に浸かり、贅沢な気分を味わった。

ベッドもふかふかで寝心地良く、これならすぐに眠れそうだなと思ったものの、いつまで経っても寝付けない。

時計を見ると、深夜の1時を回っていた。

お水でも飲もうと起き上がり、バスローブのままキッチンへ向かう。

グラスにミネラルウォーターを注いでひと口飲んだ時、カチャッとドアが開いて禅が入って来た。

「なに、眠れないの?」
「うん。ごめんなさい、起こしちゃった?」
「いや、起きてた」

禅はキッチンまで来ると莉帆の手元のグラスを見る。

「あったかい飲み物入れる。ソファにいて」
「え?あ、うん」

莉帆がソファに移動すると、禅は冷蔵庫を開けてミルクを取り出しマグカップに注いだ。

電子レンジで温めると、ガラス瓶からスプーンですくった粉を入れて混ぜる。

「はい、どうぞ。ミルクココア」
「ありがとう」

莉帆は両手でマグカップを握ると、そっと口をつけた。

「美味しい!温かくてホッとする」
「ホットだけにな」
「さむっ!」
「ははは!ほら、飲んであったまれ」
「うん」

ゆっくり味わっていると、隣に座った禅が優しく見つめてくる。

恥ずかしくなって思わず視線を逸らした莉帆は、窓の外に目をやった。

「綺麗な星空」
「ああ。今夜も三日月だな」

2人は並んで夜空を見つめる。

「ねえ、知ってる?三日月って、願いを叶えてくれるんだって」
「うん。戦国武将の兜に三日月の飾りがついてるしな」
「そうなんだ!戦国武将が?てっきり女の子の思い込みかと思ってた」
「ははは!占い師の売り文句みたいな?」
「そう。でもそんなに古くから信じられてたんだね」
「国旗に使われてたりもするだろ?トルコとかパキスタンとかマレーシアも」
「確かに!へえ、じゃあ本当に願いを叶えてくれるのかな」

三日月を見つめて呟く莉帆に、禅は聞いてみる。

「莉帆の願いは?」
「私?んー、今はね、禅がパリコレの切符を掴み取れますようにって」
「そんなの願うまでもない。俺が必ずこの手で掴み取ってやる」
「うわ、出た。俺様すごいんだぞのエッヘンマン」
「勝手に変なあだ名つけるな。それくらい思ってなきゃ、モデルなんてやってられない」
「そっか、そうよね」

莉帆はうつむいて小声になる。
禅はその顔を覗き込んだ。

「どうかしたか?」
「ううん。羨ましいなって思って」
「俺が?」
「うん。私にないものたくさん持ってる。すごいね、禅って。キラキラ輝いて見えるよ。パリコレに挑戦するって知った時、大丈夫なのかな?上手くいかなかったらどうするんだろうって心配してた。でもそんな必要全くなかったね。禅なら必ずやってのけるよ。私、心からそう信じてる」

顔を上げて真っ直ぐに告げると、禅は少し驚いてから嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう。なんか心強いな」
「私なんかじゃ力不足だけど、精一杯サポートするから」
「力不足なんてことない。莉帆がいてくれるだけで安心する。パリでも、俺のそばにいて欲しい」
「うん!もちろんよ」

すると禅の笑顔が切なそうに崩れた。

「禅?」

首を傾げる莉帆を抱き寄せ、禅はそっとキスをする。

ココアの甘い味がして、もう一度ついばむように口づけた。

莉帆の柔らかい唇に、身体がカッと熱くなる。

これ以上は、だめだ。

「莉帆、もう部屋に戻りな。ココア持って行っていいから」
「うん、おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」

優しい笑みを浮かべて禅に頷くと、莉帆は立ち上がって部屋を出て行く。

その身体からふわりと良い香りがして、禅はまた切なさに胸が痛くなった。
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