あなたと共に見る夢は〜俺様トップモデルの甘くみだらな包囲網〜
「…莉帆?」

聞こえてきた声に、莉帆は我に返る。

「禅…」
「どうした?何があった?」

禅は持っていたスポーツバッグを床に放り出すと、莉帆のもとに駆け寄った。

「何もないよ」
「嘘つけ!泣いただろう?」

視線を逸らす莉帆を抱きしめ、禅は莉帆の顔を覗き込む。

「何があった?誰かに何か言われたのか?」

莉帆が小さく首を横に振ると、禅はふとテーブルの上のパソコンに目を落とした。

莉帆のパソコンの隣に並べられた、車のステッカーが貼られたパソコンには見覚えがある。

「もしかして、あいつに会った?」

腕に抱きしめた莉帆の身体がビクッとこわばる。

「やっぱりか。どこで?何かされたのか?莉帆?」
「…事務所で、偶然ばったり。私物を取りに来たって」
「そうか。大丈夫だったか?嫌なこと言われなかった?」

必死に問い詰めると、莉帆は弱々しく視線を上げた。

「私、ちょろいのかな」
「…え、なにを…?」
「私って、軽く見られるんだね。すぐにコロッと手に入るような女。こいつなら絶対裏切らないだろうなって、安心できる女。ちょっとぐらい浮気しても許してくれそうな女。あとは、なに?真剣に愛してなくても、勝手に向こうから愛してくれる都合のいい女?私って、そんなふうに見える?ねえ、教えて。私ってそんなに」
「莉帆!」

禅が莉帆の両肩を掴み、鋭い声で遮る。

「そんなことあるか。絶対にない」
「じゃあ、どうして?あの人が言ったの。派手な女が媚びるようにすり寄って来る中、莉帆だけは純粋に俺を愛してくれたって。それって私を見くびってたってことでしょう?だったらそう言って欲しかった。本気で愛してるなんて、うわべだけで言って欲しくなかった。私の…、私の名前と誕生日をパスワードにして、本気で愛してる気になんてならないでよ!」

悲痛な叫びと共に、莉帆の目から涙がほとばしる。

禅はギュッと強く莉帆を胸に抱きしめた。
振り絞るように身体を震わせながら泣き続ける莉帆を、ひたすら抱きしめて頭をなでる。

やがて莉帆がしゃくり上げながら禅の胸に身体を預けると、禅は莉帆の耳元でささやいた。

「莉帆、よく聞いて。莉帆は優しくて純粋で、心が綺麗な人だ。一番辛いのは莉帆なのに、俺や社長のことを思いやってくれた。可愛くて健気で、誰よりも純真だよ。莉帆、くだらない男に惑わされるな。俺の言葉を信じろ。全部吐き出して、俺にぶつけろ。いつだって俺が受け止める。絶対にお前の手を離さない。いいか?迷ったり不安に思ったら俺に抱かれろ。思い知らせてやる。お前がどんなにいい女かってことを」

黙って聞いていた莉帆は、ゆっくり身体を起すと、目に涙を溜めたままじっと禅を見つめた。

「禅…」
「ん?なんだ?」
「禅って、二重人格?」
「はあー?!お前、何を言っている?」
「だって、優しいこと言ってくれるなって聞いてたら、だんだんオラオラになってきて、最後はドン引きの俺様発言。なんなの、この人?って目が点になっちゃった」
「おまっ…、お前こそ二重人格かよ?か弱く泣いてるかと思いきや、ケロッとして俺をディスりやがって。覚えてろよ?」
「うわー、ヤンキーの捨て台詞まで。やだわー、トップモデルがこんな人だなんて。マネージャーとしてビシッと教育しなくちゃ」

なんだとー!と禅は莉帆をソファに押し倒す。

「随分言ってくれるね?俺が本気で泣かせにかかってもいいんだな?」

ギラつく瞳でじっと真上から見下ろされ、莉帆は思わず息を呑む。

「ぼ、暴力、反対」
「安心しろ。俺の愛にどっぷり溺れさせるだけだ」

禅はニヤリと口角を上げると一気に莉帆に覆いかぶさり、熱く唇を奪う。

だが言葉とは裏腹に、禅はどこまでも甘く優しく莉帆を抱いた。
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