あなたと共に見る夢は〜俺様トップモデルの甘くみだらな包囲網〜
「えっと、ではマンションまで真っ直ぐ帰りますね」
「ん、よろしく」

着替えを終えた禅が控え室から出て来ると、莉帆はスタッフ全員に挨拶してから車に戻った。

スモークガラスの後部座席に禅を乗せると、莉帆は運転席に回る。

「なんか俺、男なのに女子に運転させるって情けないな」

後ろから話しかけてくる禅に、莉帆はハンドルを握って前を見たまま答える。

「マネージャーが必要な理由は、そこにありますから。万が一事故に巻き込まれた時、運転していたのがあなただったのか私だったのかでは、事態は大きく変わります」
「ああ、分かってる。悪いな、莉帆」
「とんでもない、仕事ですから。それにしても、撮影ってあっという間に終わるんですね。もっと長丁場になると思ってたので、びっくりしました」
「ん、まあね。今日はスタッフもベテラン揃いだったし、撮影だけでインタビューもなかったから」
「ええ。出版社の担当の方が、後ほどメールで質問状を送るので回答して欲しいと。それをインタビュー代わりに載せるそうです」
「了解。あ、莉帆」

窓の外を見ていた禅が、何かを見つけたような声で言う。

「はい?どうかしましたか?」
「その先に、ドライブスルーのコーヒーショップがあるだろ?寄ってくれる?」
「はい、分かりました」

数百メートル先のサインを見て、莉帆はハンドルを左に切る。

大きなメニューの看板の前でブレーキを踏んだ。

「えっと、ご注文は?」
「アイスコーヒーとストロベリースコーン。莉帆は?」
「ええ?私も?じゃあ、アイスモカにしようかな」

マイクに向かってオーダーを済ませると、車を前に進める。

莉帆が財布を取り出そうとすると、禅がすかさずカードを渡してきた。

「え、ありがとうございます」
「これくらい当然だ」

ふんぞり返って偉そうに言うのはなぜだろう?
まあ、いいか、と莉帆はありがたくおごってもらうことにした。

「はい、アイスコーヒーとスコーンです」

後ろを振り返って紙袋を禅に渡すと、禅はアイスコーヒーだけを取り出して紙袋を莉帆に返してきた。

「え?スコーン入ってますけど?」
「莉帆が食べて。俺、ダイエット中」
「はいー?」

ではなぜ注文した?
まあ、いいか、と再び聞き流す。

車を走らせながら、しばらくしてようやく気づいた。

(もしかして、最初から私の為に?)

ちらりとバックミラーで様子をうかがうと、禅は涼しい顔で窓の外を見ながらアイスコーヒーを飲んでいる。

(ふふっ、なーにかっこつけてんだか)

莉帆は思わず口元を緩めてから、自分も涼しい顔で運転することにした。
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