あなたと共に見る夢は〜俺様トップモデルの甘くみだらな包囲網〜
「禅、お待たせ。遅くなってごめんね。ロビーのショップで美味しいコーヒー買ってきたの。マシンで挽き立てのコーヒーだって。飲む?」

部屋に戻ると何食わぬ顔で、莉帆は禅に話しかける。

「ああ、サンキュ」

禅の返事ににこっと笑うと、莉帆はカップを禅に手渡す。

窓際のソファに並んで座り、外の景色を見ながらコーヒーを味わった。

「んー、美味しい!明日から毎朝このコーヒー買って来ようか」
「そうだな。俺がランニングの帰りに買って来るよ」
「そう?ありがと。あー、私も一緒にランニングしようかなー。お腹周りがふわついてきちゃってさ」

すると、どれ?と禅が莉帆のお腹に手を回す。

「ギャー!やめてよ。乙女心が傷つくじゃない」
「大丈夫だよ。フニフニしてて気持ちいい」
「ひどっ…。あー、傷ついたー!」
「ははは!」
「笑うところじゃない!」

まったくもう…と呟きながら、莉帆がまたコーヒーに口をつけた時だった。
ふいに禅がボソッと呟く。

「ありがとな、莉帆」
「ん?なにが?あ、コーヒーそんなに気に入ってくれた?」
「違う。めちゃくちゃ男前なあのセリフ」
「お、男前?なんのこと?」
「禅は必ずやってのけます。私だけは最後まで禅を信じ続けますって」

えっ!と莉帆は驚いて禅を振り仰ぐ。

「聞いてたの?」
「ああ。ロビーのショップに行くって言うから、1人で大丈夫かなって心配になって追いかけた」
「ひょっとして、ディレクターさんの話も?」
「うん。結構最初から聞いてた」
「そ、そうだったの」

禅はどう思ったのだろう?
ディレクターにあんなふうに言われて、ショックだったに違いない。

うつむいていると、禅の明るい声がした。

「なんだあのかっこいい莉帆のセリフ!俺がこのパリコレに、こだわりを持って挑んでるって?世界トップクラスのブランドのショー、アジア人を敬遠しているブランドに敢えて挑戦してる。そこを突破してこそ、禅だって?非公式のショーに出て見事成功!って放送される方が、禅にとってはマイナスだって?どこまで男前なんだよ。惚れるだろ!」
「え、ちょっと。男前に惚れるの?禅って男が好きなの?」
「違うわ!めちゃくちゃ可愛いのにかっこ良くて、俺の一番の理解者でたった一人のマネージャー。俺は莉帆にぞっこんなの!」

そう言うと禅は、クーッと苦悶の表情を浮かべた。

「あー、抱きてえ!今すぐ抱きつぶしてえ!」

うぎゃっ?!と莉帆は後ずさる。

「でも今は抱かない。きっちりやることやってからやる」
「や、や、やってから、やる?」

アワアワと仰け反る莉帆を、禅はギラッと力のこもった視線で見つめた。

「お前を抱くのにふさわしい男になってからな。待ってろよ?」
「えっと、一旦逃げてもいいですか?」
「逃がすか!世界の果てまで追いかけてやる」
「ヒーッ!怖い、怖すぎるー!」
「覚悟しろよ?俺が本気出したらどうなるか、とくと見せてやる」
「もう、ガクブルガクブル…。子リスちゃん、気絶しちゃう」
「ははは!かっわいい!」

なぜだかその後も、2人はゲラゲラ笑いながら盛り上がっていた。
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