あなたと共に見る夢は〜俺様トップモデルの甘くみだらな包囲網〜
「えー、今日の撮影なんですが、急遽テーマを変えまして。ビシッとかっこいいイメージではなく、禅さんのプライベートショットのイメージで撮らせてもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」

出版社の男性の担当者がそう言うと、禅よりも早く源さんが答えた。

「いい!それいいです!いきましょう、それで。禅ちゃんを丸裸にしてみせます!」
「ちょっと、源さん。俺、脱がないからな」
「脱がなくても色気ダダ漏れだから大丈夫よー。ほら、早くヘアメイクして来て。待ってるからー」
「うげっ!まったくもう…」

禅は渋々隣の部屋に向かった。

「いやー、編集部でもあのテレビ放送の話題で持ち切りだったんですよ」

禅がいなくなった部屋で撮影の準備をしながら、担当の男性が莉帆に話しかける。

「かっこ良さはもちろんなんですけど、禅さんがあんなに楽しそうに笑うなんてって。もう女子社員みんな、キュンキュンしてましたよ。ギャップ萌えーって。だから今日の撮影も、急遽禅さんの素顔に迫ろうってなったんです」

そうでしたか、という莉帆のセリフは、「お目が高い!」という源さんの言葉にかき消された。

「そうなのよ。禅ちゃんはあのギャップがたまらないの!キレッキレの鋭い視線でかっこ良く決めたかと思うと、私がからかうとムキになってむくれたり。もう可愛いったら!」

莉帆が苦笑いを浮かべると、すぐ後ろから「おい」と禅の低い声がした。
バスローブ姿で髪もセットしていない。

「源さん、誤解されるから余計なことしゃべるな」
「ひゃー!禅ちゃんったら、バスローブ1枚で、セクシー!早く撮りましょ」

源さんはいそいそとカメラを構える。

やれやれと禅はため息をついた。

「えっと、では。禅さんの寝起きのシーンを想定して何枚かお願いします」

担当者の言葉に、源さんの興奮は止まらない。

「寝起きね、私、大好物よ。ほら、禅ちゃん。ベッドに横向きに寝て、肘を片方ついて頭を支えてね」

禅は仏頂面のまま言われた通りにポーズを取る。

「ちょっと、それじゃあ寝っころがってお腹出しながらテレビ見てる親父みたいじゃないの。もっとこう、『やあ!目が覚めたかい?僕のスイートハート♡」みたいな雰囲気を醸し出してよ」

ブッ!と禅は盛大に吹き出した。

「なんだよそれ。無理に決まってるだろ?」
「あら、禅ちゃんは世界が認めたトップモデルよね?クライアントのリクエストには涼しい顔して応えなきゃ」

うぐっ、と禅は観念して、カメラに目線を送る。

「うーん、それだとみんな知ってるいつもの禅ちゃんなのよね。今回は、誰も知らなかった禅ちゃんを撮りたいの」

そう言うと何を思ったのか、源さんはその場にいたスタッフを全員隣の部屋へと促した。

「お願い!いい写真撮るから、ちょっと席を外してて」

それならと皆が移動する中、莉帆もあとに続こうとすると、ガシッと源さんに腕を掴まれた。

「莉帆ちゃんはこっち」

そう言ってベッドの端に座らせると、源さんは莉帆の顔のすぐ横でカメラを構えた。

「禅、カメラ見ないで。莉帆ちゃん見ててね」

ええ?!と莉帆が驚いていると、禅はまたしてもやれやれとため息をつき、顔を上げた。

「莉帆、手貸して」

そう言って右手を差し出す。

戸惑いながら莉帆が左手を伸ばすと、禅はその手をそっと下からすくった。

「莉帆の指、長くて綺麗だな。指のサイズ何号?」
「え、分かんない。普段指輪つけないから、ちゃんと測ったことなくて」

すると禅は、莉帆の薬指を自分の親指でなでながらポツリと呟く。

「こんなに細いと、5号かな?」
「どうして分かるの?」
「昔、つき合ってた相手に言われたんだ。私の左手薬指、7号なんだよねーって。だから何?って言ったら、ムッとされてフラれたけど」
「ええ?!どういうこと?」
「ははっ!莉帆、分かんないんだ?」
「うん。私も今、だから何?って思った」

真顔で答える莉帆に、禅は楽しそうに笑う。

「あはは!やっぱり莉帆だな」
「なにが?ねえ、どういうことなの?」
「サプライズでプロポーズしろって意味だよ。内緒で指輪用意して、高級レストランでパカッてするやつ」

ああ!と莉帆はようやく気づいた。

「あれってそういうからくりだったんだ。ずっと不思議だったんだよね。こっそり指輪買いに行って、サイズどうするの?って。一か八かで賭けに出るのかと思ってた」

ははは!と禅は笑い続ける。

「そんなこと思ってるの、多分莉帆だけ」
「ホントに?」
「ああ。みんなさりげなくアピールしてくる」
「ねえ、さっきから昔の彼女の話してますよね?しかも、みんな?一体何人とつき合ってたの?」
「気になる?」
「なりませんけど」

ツンと顎を上げて冷たく答えると、禅はグイッと莉帆の手を引いた。

わっ!とバランスを崩した莉帆の頭を抱き寄せて、耳元でささやく。

「好きになったのは莉帆が初めて」

一気に顔を赤くする莉帆に、禅はまた楽しそうな笑い声を上げた。
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