あなたと共に見る夢は〜俺様トップモデルの甘くみだらな包囲網〜
パリコレへの挑戦
禅がその日、何の目的で社長室を訪れたのか。

それは2週間後に社員達の知るところとなった。

「なになに?テレビの密着取材でパリコレに挑戦?えーっ!これに出るの?禅」

全社員に一斉メールで知らされたのは、あるバラエティー番組の企画コーナーで、禅がパリコレのランウェイモデルのオーディションに挑戦する様子をカメラが追いかけるというものだった。

「これって、禅が引き受けたってことよね?」

成美の言葉に、莉帆は頷く。

「そうですよね。だからこうして、決定事項として発表されたのでしょうし」
「でもさ。挑戦する様子を密着取材ってことは、オーディションに落っこちてパリコレに出られなくても放送されちゃうってことでしょ?」
「そ、そうです、よね?」

考えてみると恐ろしい。

オーディションに挑戦するだけでも緊張するだろうのに、その様子をカメラで撮影され、合否に関係なく放送されるのだ。

プレッシャーが尋常ではないことは、すぐに想像できた。

(禅って、今いくつだっけ?確か私より2つ上だから、25才か)

10代の無名の新人ならまだ分かる気もするが、禅は既に海外のファッションブランドのアンバサダーも務めたことがある、今や日本のトップモデルのうちの1人だ。

知名度もあるし人気も高い。

この挑戦が失敗に終わり、それがテレビで放送されたら?

それこそマイナスイメージで一気に仕事がなくなるかもしれない。

成美も同じように考えているらしく、腕を組んで心配そうな声で莉帆に話す。

「ええー、大丈夫なのかな?社長もOKしたってことよね?マネージャーの岡部さんも、禅の様子を見てこの話にゴーサインを出したってことだろうけど。でもねー、心配」
「そうですよね。しかもプレスリリースは明日ですって」
「明日?!じゃあもう待ったなしじゃない。今さら、やっぱり辞めますー、なんて言えないよね」

ですよね、と莉帆も頷く。

とにかく自分達外野がいくら気をもんだところで、どうにもならないのだ。

「明日告知されたら、一気に問い合わせの電話が来るわよ。質問を想定して、Q&Aを作っておきましょう」
「はい」

成美の言葉に、早速莉帆達は打ち合わせを始めた。
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