まがりかどは、秋の色
「天ぷらが食べたい気分です」

「具はおばけがいいですねえ」

「おばけ……ハロウィンが近いから、ある……かも……?」

「ハロウィンが近いからありそうな天ぷらって、かぼちゃじゃないですか?」

「かぼちゃは通年あるかなって」

「たしかに」



「今日なんか寝違えちゃって。首が痛くて」

「たいへんだ。ベッドか枕が合ってないとか?」

「うーん、安物なのはたしかですね」

「一人暮らし? ですよね? いろいろ出費がかさみますもんね」

「そうなんですよ。あーあ、雲とか綿とかみたいなベッドだったらよかったのにな」

「いっぱい貸さなきゃいけなくなりますよ」

「じゃあだめだ、やめておきます」



「本多さん、野球のルールってちゃんと分かります?」

「人並みには。体育とかでやったし」

「そうなんだあ、いいなあ」

「えっ、体育で野球習わなかった?」

「習ったけど『走って!』って言われたら走って、『いけいけいけ!』って言われたら進んでたから、ルールはぜーんぜん分かってないに等しいです」

「それはぜーんぜん分かってないな、ほんとに」

「そうなんです、読んでも聞いてもよく分からなくてだめでした……。ほら、バッテリーを組む話があるじゃないですか」

「あるねえ」

「野球のルールはよく分からないまま、筆力で最後までおもしろく読んでしまったのが心残りで」

「ラストまで読んじゃったんですか?」

「ラストまで読んじゃったんです」


本多さんから、かわいそうな目で見られた。


「飛び込みも、吹奏楽も、いろんな部活系のお話を、ルールはなんとなくのまま楽しく読んでいて……」

「石井さんは何部だったんですか?」

「茶道部でした」


運動部の選択肢がまるでない文化部でした、とつけ足すと、もっと生温かい目をされた。


「それは、……うん、大変でしたね」

「はい……」


うん。否定できない。今文庫の本を借りて読み直したって、ルールをちゃんと把握できる自信があんまりないもの。
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