まがりかどは、秋の色
そんなこんなで『まがりかど』に通い続けて一年が経ち、ようやく本多さんが大学生だと判明した。学部は違うけれど、同じ大学に通っているらしい。


本多さんもまた、今相手にしている子どもたちのように、幼い頃に文庫『まがりかど』に通い、両親や当時の常連さん、お手伝いに来てくれた人などから、たくさんの話を読んでもらったのだという。

好きそうな話を勧めてもらったり、貸してもらったりもして、随分と文字に溺れる生活をしていたらしい。


大学生。しかも同じ大学だった。

若いお兄さんとは思っていたけれど、同い年だったとは。若いなんて失礼だったかも。


基本は、大学の授業がないときに『まがりかど』のお手伝い、というか仕事をしているらしい。


なるべく夕方はあけておきたいと、一限を多めにとるようにしているのだとか。えらすぎる。


「もちろん給料も支払われますけど、たくさん手伝ったときは、好きな本を注文していいよっていう選書権をもらうときもあります」

「えっ、羨ましい!」


本多さんがふふん、と自慢げに口元を上げた。


「いいでしょういいでしょう、店員特権ですよ。石井さんもどうですか?」


一緒に働きません? と首を傾げた本多さんの前髪が、さらりと流れた。
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