まがりかどは、秋の色
「助かりました。本多さんは、ご友人と待ち合わせですか?」

「いや、時間潰してました。本でも読んどくかと思って図書館に行ったらすんごく混んでて、今の時間帯なら逆に学食の方が空いてるかなって」


だから手元にコーヒー缶一つしかないのか。


「石井さんはこれからお昼ですか?」

「そうなんです。レポートを書いてたら遅くなって、食べ損ねちゃって」


少し遅めの時間だからか、カレーうどんくらいしかもう残っていなかった。食べるのが下手なわたしには汁が跳ねる天敵だけど、仕方がない。


「隣でカレーの匂いしたら気になりますか。大丈夫ですか」


読書の邪魔すぎるお供である。心配になるわたしを、本多さんはからりと笑い飛ばした。


「大丈夫ですって。嫌だったらどうぞなんて言いません」

「さっき返事するとき、全然こっち見てなかったですもんね」

「困ってるなら座れた方がいいし、別に誰が隣でも気にしないので。逆に石井さんで助かりました」

「そうですか?」

「そうですよ。時間潰しに付き合ってくれません? 俺とおしゃべりしましょうよ」


ぼくじゃないんだ、と思った。


穏やかさの中に人懐っこさが含まれた、同い年の男の子の笑い方だった。

こちらの返事を決め打ちしてか、コーヒー以外を机の上に出す気配がない。読書はしないつもりらしい。
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