まがりかどは、秋の色
「カレーうどんを食べててもよければ……」

「いいですって。カレーうどん苦手なんですか? なんで選んだ石井さんがしょぼしょぼしてるんですか」

「これしかなくて仕方なくなんです。カレーのシミ作りそうで怖いんです〜……」

「うーん、頑張りましょう」

「はい……」


お馬鹿な会話、カレーうどんを食べる隅で、ふわりと金木犀が香った。


普段、本多さんからは匂いがしない。いつでも清潔できちんとした服と髪、磨かれた靴。シャンプーの匂いもしない。

そういうイメージだった。


でも、多分この金木犀は、おもしろそうにこちらを見つめる隣の人から香っている。気がする。


「本多さん」

「なんですか。カレー跳ねちゃいましたか」

「大丈夫ですまだです。本多さんって何か香水とかつけてます?」

「んん?」

「金木犀の香りがした気がして。いいな、秋だなーと思って」


褒めたつもりの言葉に、本多さんが愕然としてこちらから少し距離を取った。


「カレーに負けない金木犀って、やばくないですか。俺、もしかしてかなり臭いレベルで金木犀の香りですか」

「いやいやいや! 臭くないです、大丈夫です!」

「ほんとに?」

「ほんとに! ほんとに大丈夫! いい匂いだなって思っただけなの。本多さんってあんまり香りものをつけてるイメージがなかったから」


慌てて言い募ると、ほっとした様子で距離が戻った。
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