まがりかどは、秋の色
『まがりかど』は、ほんとうに曲がり角にある。


紅葉をかき分けた先、小道の向こう、ぽつんと佇むレンガの建物。


建物は入り口で二つに分かれていて、書店と文庫で本が混ざらないようにしてある。

購入するなら綺麗な状態がいいというのは、一般的な感覚だもんね。


隠れ家みたいな小さな場所は、本屋と個人文庫を兼ねている。この街に個人文庫があったことを、わたしはそのお散歩まで知らなかった。


個人文庫は全国的に見ても今は数を減らして久しい。ましてや、若いお兄さんがいる、となるとかなり珍しい。


ささやかなお話し会は、読み聞かせとブックトークの二本立てで、小さいお子さん向けながら、秋らしい選書や登場人物にふさわしい声色が素晴らしかった。

ゆるく分けられた少し長めの前髪が、お兄さんの声色や動作に合わせて少し揺れた。


本棚みたいな焦茶のエプロンをつけたお兄さんは、本多(ほんだ)さんというお名前らしい。


台に乗らなくても本棚の上の方まで届く身長を低く折って座り、子どもたちと同じ目線になって、ゆっくり話す。

本多さんは話すだけでもきれいな声をしていて、耳心地がよかった。


お話し会の参加者は、もちろんお子さん連れのご家族が多かった。対象年齢を考えると大成功。

他には、たまたまお話し会の時間に書店にふらりと立ち寄ったらしいお客さんが、少しばかり文庫の方に入ってみていて、わたしはそちらに紛れることができた。


お話し会の終わり、それぞれが好きな本を一冊選ぶのに混じって、貸し出し用の棚を一通り見て回る。
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