まがりかどは、秋の色
いたずらっぽく笑った本多さんが、お話、と柔らかい語彙を使うことに、今さら気がついた。


子どもたち相手だからか、生来の気質か、この人が選ぶ言葉は、丁寧だったり丸かったりする。

あくまで素だと分かる、真摯なさりげなさ。


おうち柄、たくさん読んできた経験、今彼が専門で学んでいる経験が、多分に含まれた言葉選びは、児童書の文章みたいで心地よい。


お茶を飲み干し、本を鞄に大事にしまったところで、「駅まで送ります」と本多さんが立ち上がった。


「ありがとうございます、お願いします」


置きっぱなしのお茶も気になるけれど、これ以上時間を使わせるわけにもいかない。わたしも慌てて立ち上がる。


スマホだけポケットに突っ込んだ本多さんは、こちらがお礼を言い終わらないうちから、さっさと歩き出してしまった。


いつもは礼儀正しい本多さんに珍しく、あまりわたしを待ってくれない。

多分、こちらが気を回す余裕をなくしている。


迷子になる前に、失礼しました! と玄関先で一礼し、バタバタと遠くの高い背中を追った。
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