まがりかどは、秋の色
「石井さん、まだ時間大丈夫?」

「まだまだ大丈夫」

「スーパーとかコンビニとか、どこか赤い牛乳がありそうなところに寄らない? 牛乳を買って帰って、そのまま飲むとちょっと寂しいから、カフェオレにでもするのはどうですか」

「えーそれいいね! お互いに交換こしてさ、おつかいし合いっこしよ!」

「おつかいは楽しそうでいいんだけど、ごめん、俺今スマホしかなくて」

「そっか、ほんとうなら送ってくれるだけの予定だったもんね」

「だからQRコードおつかいするわ」

「現代っ子のおつかいだあ〜……」

「たしかに俺らは現代っ子ではある」


そんなことを言いながらコンビニに寄ると、無事に赤い紙パックの牛乳が見つかった。わたしは現金で、本多さんはQRコードでお会計。


隣のレジから聞こえる電子決済の音がやたらと気になりつつ、小さいサイズの牛乳と小袋のドリップコーヒーをお互いに買い、袋に入れてもらう。

本の女の子のように、牛乳を手に握りしめて帰るわけにはいかないもんね。


コンビニを出たところで袋を交換する。


「今日はほんとうにありがとうございました」

「いえいえ。こちらこそありがとうございました。本、楽しんでね」

「うん! カフェオレ飲みながら読むね」

「俺も、カフェオレ飲みながらなんか読んどく」

「わーい、お揃いだ」

「うん。お揃い」

「じゃあ、またね。大学かまがりかどでね」

「はーい、また」


その日の夜、見つけたばかりの本を大事に抱えながら、多分、本多さんと同じカフェオレを飲んだ。


ただのコンビニの袋さえ、なんだか捨てがたかった。
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