まがりかどは、秋の色

5

大学で見かけたら、遠慮せずにお互い話しかけるようになり、一緒に通うようになり。


ねぼすけなわたしに早起きは向いていない。

だから、一限が多い本多さんと朝に会うのは難しいけれど、夕方は会える。文庫に向かうついでに、一緒に帰る日が増えた。


同じ講義を取って隣に座ったり、範囲は違えど、試験に向けてそれぞれ勉強したり。

就活について話し合ったり、情報共有をしたり。


大学図書館で待って合流したり、学食でお昼を一緒に食べたり。

研究に必要な資料を借りに遠出するのに、お互い付き合ったり、ついでにお出かけを楽しんだり。


お互いを、(なお)、もも、と呼ぶようになったり。

『まがりかど』に行かない日は、尚からなんだかいい匂いがするのは変わらなかったり。


竜を呼ぶ宝石みたいにきれいで丸い、青く透き通った水ようかん。

二人で半分に分けて、それぞれ小さなガラス瓶に移し替えた金平糖。

まんまるお月さまみたいなボタンのついたコート。


そんなふうに過ごすうちに、本棚を彩る季節の飾りがもう一周した。


「わーっ雨!」


濡れちゃう濡れちゃう、と大慌てで折りたたみ傘を開く。


「折りたたみ傘開くの早くない? どこの傘? すんごく早くてびっくりした」


お互い、敬語がすっかり外れて久しい。


自分も傘を開きながら隣に並んだ尚に、くるっと傘を回してロゴを見せつけ、「濡れたらたいへんなので」とキリッと返事をする。

なんてったって、今日は尚に会える日なので、かわいい服を着ているのである。


「そっか、今日は桃色の服だもんね」

「いや色ははげないよ。ちゃんと濡れても大丈夫な桃色だよ」

「クレヨンね?」

「きりんちゃんは好きだけどお」

「うそうそ、風邪引いたらたいへんだからね。あったかい飲みものでも買おっか」
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