まがりかどは、秋の色
「もも、アールグレイと桃のケーキだって。お店寄らない?」

「美味しそう! 寄る!」

「おっけ、食べよ食べよ」


ハッと尚が何かに気がついた顔をした。


「もも、もものけーき……」

「……なーお」

「もも……もうひとつ……」

「尚。なーお」

「も、も……もっと……目撃……」


こちらの静止も聞かず、尚はぶつぶつ呟いて、『も』から始まる言葉を探そうとしている。


「ももは桃が盛りつけられたケーキを目撃した」みたいな、『も』ばかりたくさんの、変な一文を作ろうとしているに違いない。


「尚〜? 人の名前を早口言葉にしないでくださーい」

「早口言葉の人の名前と言えばあれでしょ。じゅげむじゅげむごこうのすりきれ」

「じゅげむくんと違って、わたしはせっかく二文字なんだから増やさないで」

「たんこぶできても治らないよ」

「病院に行くから大丈夫だよ。そんなこと言ったら、尚だって名前が短すぎてたんこぶ引っ込まないよ」

「ももももも、とかどう?」

「だから、もう!」
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