まがりかどは、秋の色
コートを手繰り、熱を奪う木枯らしから身を隠す。


ハーッと息を吹きかけて寒さをしのぐ隣で、尚は寒そうに肩をすくめている。その息はすっかり白んでいた。


「尚、寒い?」

「寒い」

「うん、寒そう」

「男物って基本靴下が短いんだよね。もっとながーいのがあればいいのに」

「おんぼろな家で一人暮らしできちゃうくらい?」

「おかしいなあ。おんぼろなアパートで一人暮らしはしてるんだけどなあ」

「ほら、お父さんが船長じゃないからじゃない?」


家族経営だから当たり前なのだけれど、尚のお父さんはもちろん船乗りではない。『ちいさなまがりかど』の店長をしている。


それだ、と笑った尚が、こちらの指も同じく赤いのを見てとった。


「手ぶくろ買ってあげよっか」

「片手にお金を握らせて?」

「片手にお金を握らせて」

「やだもう、お母さんじゃないんだから。まず自分のを買ってください」

「まあまあ、お金は握らせないので片手貸してください」


はい、と差し出した片手はするりと重なり、尚のポケットに放り込まれた。


……ん?


確かにお金は握らせられていないけれども、手は握られている。うん?


「手ぶくろじゃなくていいので、カイロか飲みもの買わせてください」


俺も買うし。


「じ、じぶんで……」

「この間のオムレツのお礼ってことで」


一言で押し切られる。


心臓がうるさかったし手汗も心配だったし、ぐるぐるしているうちに、カイロもあたたかいココアももらった。


……うん?
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