まがりかどは、秋の色

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本は読まれるもの、読まれるたび褪せていくもの。『ちいさなまがりかど』にはそういう空気がある。


できるだけ丁寧に読むよう注意はされているけれど、わざとでない限りは寛容だ。

幼い子が不注意で水を倒してしなしなにしたり、ページを勢いよく掴んでめくってぐしゃっと折れ曲がったりしても、本多さんも、他の店員さんも、「まあ仕方ないかあ」と笑っている。


何度か通うようになって分かったこととしては、『まがりかど』には本多さんが三人いる。


おばさまとおじさまと、わたしが初日にお世話になった、感じのいい若いお兄さん。

訂正。みなさん感じがいい。


マスクの上の目元が似ているから、ご両親と息子さんなのかなあ。個人情報すぎて、わたしからは聞けないけれど。


本多さん──ええと、若いお兄さんの本多さんの方──はいつも、本を借りにカウンターに行くと、さりげなく一言声をかけてくれた。


「それ、かわいいですよね」

「ぼくも子どもの頃読みました! いいですよね〜!」

「作者さんのインタビュー記事があるんですけど、読みます?」


わたしが借りる大抵の本には「読みました!」というコメントがついてくる。


本多さんが言わないこともあるだけで、きっとここの本は読み尽くしている。

もしほんとうにご家族経営なのだとしたら、本多さんにとって『まがりかど』はご実家の本棚みたいなものだろうから、当たり前かもしれないけれど。
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