まがりかどは、秋の色
「このシリーズでわたしが一番好きなの、リボンで髪を巻くところです。憧れてやってみたりして」

「へええ、うまくいきました?」

「いいえ、全然。やり方は合ってたんですけど、髪質に向き不向きがあるんだそうです」

「残念でしたね。好きというか印象的なところになっちゃいますけど、ぼくはバッタの大群のところですね」

「あ〜! あれ怖いですよねえ」

「ちょっと前に、セミが大量発生するってニュースがあったじゃないですか」

「はい、別の種類のセミの周期が重なるとかいう」

「それですそれです。そのニュースを見て思い出して」



「今日の黒いワンピース、魔女みたいでかわいいですね」

「分かります? ここにちゃんと黒猫ちゃんもいるんですよ」


揺らしたピアスに、きれいな切れ長の目がまんまるになった。


「ほんとだ……! 黒猫が揺れるのいいですね」



「今日は人が多いですね、イベントでしたっけ?」

「うちではなんにもないんですけど、近くの通りでミニ演奏会があって」

「ああ、だから音が聞こえるんですね。クラシックを聞きながら隠れ家みたいな本屋さんに行くなんて、物語が始まりそう」

「残念ながらいつも通りなので、ぼくは物語を始めに衣装ダンスに入りたいです」

「えええ、雪国はまだ早いですよ。わたしと一緒にもう少しおしゃべりしましょ」

「トンネルを抜けますか」

「それも雪国じゃないですか。早い早い、まだ秋ですよ」
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