可愛いものが好きな先輩は,ちっとも可愛くない。
転校2日目の今日も,私は真っ直ぐ第3校舎へと向かっていた。
約束とも言えない約束だけど,念のため。
自分も悪かったと伝え損ねてしまったから。
自分のクラスがある第1校舎を離れようとすると,私はふいに人の視線を感じる。
直感的に,私は第3ではなく第2校舎へと走り出した。
適当な教室に滑り込み,座る。
ぱたぱたと教室を横切るいくつかの足音に,声を殺したまま驚く。
やっぱり,私のあとをつけていたの……??
そんなにあの先輩の居場所が知りたいのだろうか。
どうして,と考えて,忘れていたあの容姿と声を思い出す。
これが,モテるって,こと。
こくんと飲み込んで,私は来た道をゆっくり戻り,今度こそ呼ばれた場所へと向かった。
ちょっと,遅くなっちゃったけど……
片方の扉を押して,中に入る。
先輩は何か本を読みながら,私に気付いて顔をあげた。
「誰にもばれてない?」
開口一番首をかしげる先輩に頷く。
「何人か誰か先輩に会いたがってるみたいでしたけど……走っ撒いて来ちゃいました。……合ってましたか?」
「うん,ありがと。僕は会いたくないから」
あっさりとした言葉をスルーして,ぱっと先輩の周囲に目を向ける。
昨日とは違い,本で道や空間が出来ていた。
私が来る迄の間に片付けたんだろうか。
掴めなくて謎だらけの,変わっ……不思議な人。