可愛いものが好きな先輩は,ちっとも可愛くない。



「はい,どーぞ」



渡されたのは,キラキラして見えるほどの綺麗なケーキ。



「えっ」



うっかり受け取りながらぎょっとすると,先輩の知り合いの家がケーキ屋さんで,持ってきて貰ったらしい。



「ケーキはいいよ。可愛くて美味しい。昨日は誤解したし,寝起きだとはいえ言いすぎてた,ごめん」



お詫びの証,と言うことなのだろうか。

ケーキを見て,悲しい気持ちが膨れ上がる。

そんな私の表情に気が付いて



「どうしたの?」



といつの間にか同じケーキを持った先輩が隣に座る。

はくぱくと口を開きケーキを頬張る先輩をみながら,私はため息をついて全てを打ち明けた。



「私,転校してきて……なのに,友達もまだいなくて,先輩にもひどいこと言って……それなのに今やってることと言ったら,見ず知らずの先輩にケーキ貰って……何してるんだろうって」

「意外と失礼だよね,きみ」



見ず知らずの先輩,は失礼なんかじゃありません。

ほんとのことです。

こうして話している間にも,ケーキを器用にフォークで掬う先輩。

何も考えていないようで,私を慰めるような言葉をかける。



「沈んでるなら,なおさら食べなよ。ほら,あーん」



冷たい人なのかと思ったのに。

案外優しいところがあるらしい。

慣れないあーんも,あまりに自然な動きに見えて。

私はうるると目を潤わせて,勢いのまま口を開いた。

モグモグとしながら,そんな私をみて一瞬だけ先輩が見せた微笑みに見惚れる。

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