可愛いものが好きな先輩は,ちっとも可愛くない。
「あの……?」
同じく先輩であろう人にじっと見つめられ,私は何かと尋ねた。
「こいつの幼馴染みで同じクラスの小野寺秋。あんたが食べてるケーキは俺の家ので,俺が持ってきて,冷やしてたやつ」
「あ,ありがとうございます?」
無表情で少し怖いと思う。
けれど次にはふっと笑われ,からかわれたことに気付いた。
「はい。どれがいい? いらないならいいけど」
そんなやり取りにもお構いなしに,先輩から目の前に並べられた可愛いぬいぐるみ達。
「比較的新品だから,安心して。あんまり抱き締めたりもしてないし」
あんまり? と思いながらも目を奪われる。
「これ」
先輩のなんだろうか。
明らかに市販ではない洋服を,その一体一体が綺麗に着せてもらっていた。
「そ。洋服は僕が作ったの。かわいーでしょ」
素直に緩んだ表情を見せてしまう。
そして,最初にこれを見せた時の先輩の言葉を思い出した。
「どれがって,これ,貰っていいんですか?!」
「うん。いーよ。きみのキーホルダー,何度もほつれを縫い直した跡があって,きっとこのぬいぐるみ達も大事にしてくれると思ったから」
1度落としてしまった,先輩の届けてくれたぬいぐるみキーホルダーをカバンから取り出す。
ボールチェーンが弱いからと,今だけはしまっていたのだ。
これは,昔出張先で父が買ってくれたもの。
長く使えるように,時々洗ったりしているが,少しだけ古びている。