可愛いものが好きな先輩は,ちっとも可愛くない。
瞳だけで驚く秋先輩は,ゆっくりと微笑む。
「俺は別に。光は?」
光。
秋先輩が呼び掛けて,そう言えばそう言う名前なんだと先輩を見た。
名字は,クラスメートの言葉を聞き間違えていなければ,そう。
はもん。
巴 光。
巴,先輩。
返事を待って,どきどきと先輩を振り返る。
先輩はどこか楽しげな表情を浮かべた。
「そんなにいつも遠慮しておろおろしてたら損するよ,翠ちゃん」
すい,ちゃ
ぶわりと,何かが内側から溢れた。
「名前,なんで……!」
「転校生,なんて分かりやすいワード。先生に聞けば1発だったよ」
知られているとすら思ってなかったのに。
あわあわとする私をよそに,先輩はもう秋先輩の方を見ていた。
けれどその会話も,私についてだったらしく
「ねぇ,秋。明日からケーキ1人分追加ね」
「1個でいいか? 南」
急に問いかけられて,今度は別の意味でどきりとする。
ケーキ? 私の?