可愛いものが好きな先輩は,ちっとも可愛くない。
上手くは話せなくても,私が会話し始めたのをみて,他のクラスメートも私に声をかけ始める。
「へー,南さん家近いんだ~ー。でも大変だね彼氏とかいなかったの?」
「彼氏は……いないんですけど,友達がたくさん……」
急な転校で,また沢山置いてきた。
「そっか……」
静まった空気を感じて,焦る。
切り替えたはずだったのに,気を使わせるようなことを……
前回は今までで1番長くて,友達にも恵まれて,沢山寂しがってくれて。
だからまだ,きっと抜けきれないんだ。
顔をあげると,困った顔のクラスメートが見えた。
どう,なんて,いえば。
今の言葉を,今さら無かったことには出来ない。
「えっと,でも」
ここでも,皆と,仲良くなれたらと
思い浮かぶ言葉はあるのに,それを言えたらこの空気も取り戻せるのに。
これ以上何か失言したらと怖くなる。
そうしている間に,私の沈黙をどうとらえたのか
「あーごめんごめん。変なこと聞いたね。またはなそ」
先に謝罪されてしまった上に,ひとりずつ私から離れていってしまった。
「昼はゆっくりしたいだろうし……じゃあ放課後ー。誰か南に学校案内して欲しいわけなんだが」
思案するように,先生が呟く。
放課後,という単語に,全員の意識が先生に向いた。
「あー。学級委員でいいか。花塚,頼めるか?」
ぴくりと,最初に話しかけてくれた隣の席の子が反応する。
この人が,花塚さん。
そう言えばまだ,誰の名前も聞けていなかったと今になって思い出す。