可愛いものが好きな先輩は,ちっとも可愛くない。
「あ~。秋ってば呼び捨てにしてる。だめだよ」
「俺は後輩扱いしてるだけ」
「それにケーキも1個なんて足りないでしょ」
聞き捨てならない言葉に,私は声をひっくり返しながら身体を動かした。
「たっって,大丈夫です!! それに,ケーキも……」
大食いだと思われてる?
それにお金だって。
「……悪い。目の前のやつが毎日平均五個ほど食ってるから」
「翠ちゃんが来なかった日は,もう一個食べられるな~」
嬉しそうな先輩。
なんだ,大食いなのは,先輩の方なんだ。
「僕達,待ってるから。またいつでもおいで,翠ちゃん。僕達,友達でしょ?」
きゅうっとする。
どきどきする。
泣きそうで,うれしくて。
よく分からない感情のまま,私は笑った。
お皿を片付けながら,先輩が思い出したように言う。
「ねぇ,なんで僕が"先輩"で,秋が秋先輩な訳? それじゃ僕,どこの先輩が分かんないんですけど」
不満げにこぼして,ふて腐れる先輩。
その理由は至って簡単で。
「だって私,先輩の名前知らないし」