可愛いものが好きな先輩は,ちっとも可愛くない。
「なんで,そんな勝ち気な顔」
「んー。なんでだろうねえ」
にこにこと返される。
そして,はも先輩はないしょ,と言った。
「それより秋。僕を試そうとするのはやめてよね」
「?」
「……なんでもない。ごめん,わざとかと思った」
「そうか」
私もだけど,秋先輩,分かってなさそうだな。
と思うと同時に,同じように感じた光が秋を殴る。
「なに」
「別に!! またね! 翠ちゃん!」
「あ……はい」
そろそろ,と2人は自分の教室へ向かい,私はひとり取り残された。
私も,と歩き出す。
そして,トゲのある声が気になって,すぐに足を止めた。
「うわ。ずぶ濡れ。校舎まで濡らすのやめてよねー。女子力低すぎ」
私の,こと?
「ねー。下着も透けてるし」
「やだぁ。でもわざとでしょ。あざとー。ほんっとにやり方キモいわ~。私なら絶対やんない」
な,なに?
テンポのいい会話に,身がすくむ。
受けたことのない,悪意にまみれた先輩からの視線が突き刺さった。
胸元を見ると,確かにほんのりピンクが透けている。
こんな状態で先輩達の前に立っていたのかと思うと,発熱したような気分になって,私は借りたままのタオルで胸元を隠した。
顔を逸らし,方向を変える。