可愛いものが好きな先輩は,ちっとも可愛くない。
「こんなのただの,八つ当たりとばっちりだ。それに,間違いだらけだよ。翠ちゃんは僕に何か求めて近寄ってきた訳じゃない。その可愛い服だって,打算で作られたものじゃないことくらい僕にも分かる」
私の身体はやがて解放され,代わりに服をそっと取られる。
「ふふ。かわいい。ありがとう」
「え,はい」
さっきとはうってかわって,こちらこそ?
と私が思うような嬉しそうな笑顔。
それにあの先輩から言われた言葉を上塗りするように認めて貰えた気持ちに,私はじんわりと心を温めた。
「じゃあ,行ってくるね」
行くって
「どこに」
「僕の大事なものに手を出そうとする人には,ちゃんとお灸を据えなくちゃね」
笑顔が怖いと思う。
追いかけるようについていくと,そこにはまだ階段を下りきっていない先輩が。
私達の会話は聞こえていなかったのか,声をかけられて初めて,嬉しそうにぱっと振り返る。
けれど私の姿も見つけて,何を思ったのかはっとしたように私を睨む。
「逆恨みするのはやめてくれる?」
柔らかい声と裏腹なきつい表情。
「全部聞こえていたよ。僕から離れるべきなのは,翠ちゃんじゃない。中島さん,君の方だよ。毎日付きまとわれて,いい加減迷惑なんだって気付いてくれない?」
「そんなっ私は!!」
「ただのクラスメート。そうでしょ? あまつさえ翠ちゃんに手を出そうなんて,僕,絶対許さないから」