可愛いものが好きな先輩は,ちっとも可愛くない。
冷たく聞こえる言葉に,私は,とはも先輩の激情に触れて戸惑う。
こんな風に怒る人なんて思わなかった。
いつもにこにこしていて,ふわふわしているのに。
「どうして,どうしてその子なの? 絶対に私の方がもっと」
「ブス」
ツキンと突き刺すような言葉に,どきっとする。
あまりに鋭利で,私は自分が言われたとさえ錯覚した。
「のきみと,翠ちゃんを一緒にしないでくれる? 勝てるわけないのに」
「せんぱ」
堪らず声をあげた私へ一目をよこし,困ったような顔をするはも先輩。
ぱっと私から受け取ったばかりの洋服を掲げ,はも先輩が顔の横でぴこりと動かす。
そしてにこりと笑い,今度は優しく声色で告げた。
だけど優しいのは声色だけ。
細められた目の奥は,止めを指すように冷たかった。
「これはね,中島さん。僕から頼んだんだよ」
顔を歪め,走り去る先輩。
「はも,はも先輩!!」
2人残され,私は恐慌しながらはも先輩にしがみつく。
「あーあーうんうん。なーにーー」
素直に揺られながら,はも先輩は小さな抵抗を見せた。
「なっなんであんなこと言うんですか!! はも先輩,可愛いが好きだって言ってたのに……!」
あんなこと,女の子に1番言っちゃいけない。
それにあの人は,私なんかと比べてもとても可愛かった。