可愛いものが好きな先輩は,ちっとも可愛くない。
「翠ちゃん?」
うっかり考え込んじゃった。
頬の暑さに気がつく。
初対面じゃなくたって,流石に格好いい。
軽く握った右手を持ち上げ,引き絞った唇のもとへ運ぶ。
「あ,えっと」
「可愛いね,翠ちゃん」
下から覗き込んでくる。
はも先輩は分かっててやっている。
小悪魔だ。
でも,嬉しい。
私が嬉しいことも,きっと分かってる。
「髪の毛も,くるくる」
触れない距離に,手を近づけてくる。
このままでいいなら,戻そうとしていたことは自分からは言わないでおこうと思った。
「今日は僕に気をつかわないこと! 見たいもの,食べたいもの,やりたいことはどんどん言うこと!」
分かった? と人指し指を立てるはも先輩。
「はい」
デートだろうとただのお出掛けだろうと,これが今日私のために決行されたことには変わりない。
はにかかんで返すと,はも先輩はくるりと回った。
「じゃあ行こっか」
どこにと驚きながら着いていく。