可愛いものが好きな先輩は,ちっとも可愛くない。
「わーっすごいよ翠ちゃん! ぞうのエサやりだって。リンゴ食べるの,すごいねえ!! はやくはやく~ーっ!」
私は実は始めてくる場所ではない。
昔,ここよりもっと離れた場所に住んでいたときに来たことがある。
だけど,他の動物園を思い出しても……あんなに楽しめる人ははじめてみた。
動物園の入り口に立ったとき,少しだけ私ばっかりになるかもしれないと思ったけど。
はも先輩の笑顔には嘘がない。
はも先輩は楽しむことが得意な人。
はも先輩が私に言っていたのは,ああいうことなのかもしれないと思った。
素直に,はも先輩が楽しんでくれているのをみると,私もうれしい。
「お昼,どうする? レストランで座って食べる?」
私が決めてもいいの?
見返すと,待っている先輩。
「あんまりお腹が空いてないので……キッチンカーで済ませたいです」
「じゃあそうしよう! 僕焼きそば食べたーーいっ」
分かったと,満面の笑みで返してくれる。
私に選ばせてくれたのは,私が何を選んでも構わないから。
はも先輩。
私は,ポテト,食べたいです。
そっと横顔を盗み見て,私ははも先輩に合わせるように心で呟いた。
「楽しい? 翠ちゃん」
「え」
「今日はずっとその笑顔でいてね」
指を自分の頬に当てるはも先輩。
そしてまた,何でもないように前を向く。
私はその背中を,服をもって引き留めた。