可愛いものが好きな先輩は,ちっとも可愛くない。


「僕ねぇ翠ちゃん」

「は,はい」

「小さい頃から,話しててもちらちら見られたりして。女の子とまともに遊んだことなんてなくて。男の子にも色眼鏡で見られちゃったりして」


先輩の瞳が一瞬,悲しく揺れる。



「普通にしてくれる人もいたけど,だからって仲良くなるかは別の問題でしょ? だから僕のそばにいたのは,秋と,ぬいぐるみとかの可愛いものだけだったんだー」



抱き締めたまま,私を見つめる。



「楽しいね,翠ちゃん。かわいいね」



クマを見ながら,嬉しそうに笑う。

切なくて,ぎゅっとなって。

先輩を見ていると,ドキンと胸がまたなった。

人差し指に,つんと絡まる先輩の人差し指。


「いくよ」

「はい」


先輩みたいに,気持ちが急かされる。

もっともっと,先輩といたい。

動物の鳴き声がする。

ライオン,かな。

日が落ちる前にはここを出ないと,帰るのが遅くなってしまう。

だから,きっとそろそろ。

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