可愛いものが好きな先輩は,ちっとも可愛くない。
「昨日は勘違いでひどいこと言ってごめんね」
蒸し返される昨日の事。
未だ座ったままの私へ,先輩からの謝罪にざわつく周囲。
私こそ,そもそもは。
朝はあんなに,謝ろうと思っていた出来事を先に謝られてしまうから。
私はあのときの事を謝れなくなってしまった。
なのに,さらに先輩は私からの謝罪を封じるようなことを言う。
「お詫びするから,放課後昨日のところに来て」
驚いて,言葉がでない。
流石にそれは遠慮したいと立ち上がったときには
「じゃあね」
目線を流して,先輩は私に背を向けていた。
これは,約束……ってことに,なるの?
行き場を失った右手を見つめ,私はかたんと座る。
「ねぇねぇねぇ!」
興奮気味なクラスメートの女の子達に,隙間なく囲まれる。
全方位から前のめりにされて,私は肩を縮めた。
「昨日のってなに?!」
「どこの事?!?」
「何があったの?!」
「ねぇねぇねぇ!」
浴びるように聞こえる沢山の声。
何とか聞き取ったものにだけでも答えようとするけど,人から逃れたがっていたように聞こえた昨日の会話を思い出すと,何も言えなかった。
もしかして,場所でなく昨日のと言葉少なに伝えたのは,他の人に聞かれたくなかったからなんじゃないかと思う。
ごめんなさいと伝えたいのに,その間すらも与えられない。