御曹司様、あなたの子ではありません!~双子ベビーがパパそっくりで隠し子になりませんでした~
第八章 その愛だけを信じて


その日は日曜日だったが、外せない会食があり家を出た。

会食の相手は製薬やITサービスなど幅広い企業を傘下に持つ近堂(こんどう)ホールディングスの会長、近堂親臣(ちかおみ)。御年六十五歳で、日本経済に強く影響を与える存在として、財界の重鎮と呼ばれている。

父ともっとも親しくしていた経営者であり、ライバルでもあった。現在は競業ながらも、亡き父の代わりに俺の成長を見守ってくれている。

全世界を飛び回り、あらゆる料理を食べ尽くして、舌が肥えに肥えた会長を飽きさせないために、今日は和洋折衷の創作懐石レストランを手配した。

モダンなテーブル席。店のスタッフに案内されて、威厳と貫禄を兼ね備えた男性が個室に入ってくる。

少々ぼってりとした体格に食えない性格。周囲からは畏怖を込めて古狸と呼ばれているが、俺の印象としては鋭い観察眼とタイミングを見極める力、瞬発力は狐に近い。

そのうしろからひっそりと現れたのは秘書の菊田という男だ。いつも空気のように存在感をころして会長の背後にいるが、噂によると相当な敏腕らしい。

「お久しぶりです。近堂会長」

立ち上がって挨拶すると、彼は手で「座ってくれ」と示し、目尻の皺を濃くした。
< 215 / 255 >

この作品をシェア

pagetop