御曹司様、あなたの子ではありません!~双子ベビーがパパそっくりで隠し子になりませんでした~
「あれは皇樹さんのおまけで声をかけられただけですよ」

これまでひとりで歩いていてモデルにスカウトされた覚えなどない。

……いや、そもそも繁華街をひとりで歩いたこと自体なかったかも。ぼんやりと考えを巡らせていると、不意に彼が覗き込んできた。

「これからひとりで行動するようになると、ああいう輩と遭遇する機会が増えてくるから気をつけて。楓は自分で思っているよりずっとかわいいんだから」

言葉とともに向けられた柔らかい眼差しにドキリとして胸が騒ぐ。

……本当にかわいいと思ってくれてる?

だがついさっき妹と間違われたばかりで、少なくとも今の私は、皇樹さんの隣にいても恋人には見えないらしい。

……そのかわいいは褒め言葉? それとも、子ども扱い?

浮かれたと思ったら落ち込んで、情緒がジェットコースターみたいに上下する。

以来、お出かけは車が多くなった。

外出の範囲や頻度は増えたけれど、私たちの関係は進展しない。会うたびに期待するけれど、結局キスもハグもなく一日が終わってしまう。

やっぱり私たちの関係は〝許嫁〟であって、〝恋人〟ではないのだろうか。

一緒にいられる嬉しさと、なにも起きなかった落胆が入り混じった。




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