御曹司様、あなたの子ではありません!~双子ベビーがパパそっくりで隠し子になりませんでした~
戸惑う皇樹さんの声。私は涙を見られないように彼に背中を向けて、今度こそ別れを告げる。

「さようなら」

「楓、待って!」

再び腕を掴まれて、逃走を阻まれる。「楓はすぐ逃げ出すんだから」と焦った声でうしろからぎゅっと抱きしめられた。

「俺はこの機会に、〝許嫁〟って言い方をあらためるべきだと思っていて」

「……え?」

「もう子どもじゃないんだから、〝婚約者〟でいいだろ」

予想もしなかった言葉に顔を上げ「それって……」と思わず間抜けな声を漏らす。

「私と、結婚してくれるって、言ってますか?」

「やっぱり疑ってたんだ……あまりにも逃げるから、そうじゃないかと思ってた」

彼は正面に回り込み、まったくもって心外という顔で、私の涙を指先で拭う。

「……だって、芙芝家はもう経営一族じゃないから」

「〝許嫁〟って表現を使うからややこしくなるんだ」

苛立ちと呆れを含んだ声。なのに、頬を包み込む手は優しい。

「家柄とか、親の約束とか、そういうのは関係ない。俺と楓は愛し合ってるんだから、ただの恋人で、〝婚約者〟だよ」

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